第2話 真実の愛に目覚める予定らしい

「……なんで分かったんだ?」


 俺は相談してきた子を当てられたことに少し驚く。

 

「あー、やっぱり? だってあの子、健介けんすけのことが大好きってオーラが凄いもん。見てるこっちが焦れったいくらい」

 

「マジか、全然気づかなかった……」

 

「うわぁ、モテすぎて恋愛センサーガバガバになってやんの」

 

「おい、人聞きの悪いことを言うな。普通気づかないって」


 俺をからかいながら、宮瀬は表情を和らげた。

 やっぱり恋バナが楽しいらしい。

 ……この恋愛脳め。


「にしても落とし方かぁ……ってそんなの、上城が女の子にしてもらって嬉しいことを教えてあげればいいんじゃん」

 

「俺が? でも女の子は何しても可愛――」

 

「――あー、うん。了解。ようやく問題が見えた。えっと、そうだなぁ。でも私、男の子を落とそうとしたことないから分かんないんだよね」

 

「……俺が言うのも何だが、お前も大概エグいな……人選ミスか」


 俺の言葉に、宮瀬はにやにやと笑った。

 

「うーん。人選ミスだって決めつけるには、まだ早いんじゃない?」

 

「……どういうことだ?」

 

「ふふっ。それでは聞いてくださいっ! 篠川健介くんは――なんと、私の元カレです!」


 突然のカミングアウトに、俺は顔を引き攣らせた。

 

「ぐっ……胸やけが……」

 

「上城にだけは言われたくないでーす」


 宮瀬がべっと舌を出す。

 

「――つか元カノがお前って、健介の理想は結構高くなってるんじゃないか? 大丈夫かな」

 

「あー、そこは問題ないと思うよ。健介も、私のことが好きってよりは私の彼氏ポジを欲しがってるだけって感じだったし。俗に言うアクセサリーってやつ?」

 

「……」


 コミュ力に絶対の自信を持つ俺だが、これにはさすがに言葉を詰まらせた。

 

「……そんな顔しないでよ。別に気にしてないし、私も人肌恋しいってだけの理由で付き合ってるからお互い様だよ」


 宮瀬が軽く笑ったので、自然に流してしまうことにする。

 

「そうか。でも、それを聞くと健介みたいな男を桃花ちゃんとくっつけて良いのか、ちょっと迷うな」

 

「いやいや、健介は桃花ちゃんに恋をして始めて、真実の愛に目覚めるんだよ」

 

「ほんとかよ……」

 

「うん。恋愛マスターの私が保証する」

 

「いや、三ヶ月も持ったことがない女に説得力ねぇ〜」


 軽口を叩く俺に、しかし宮瀬は自信満々な様子だった。

 

「分かってないなぁ。三ヶ月も持ったことがないからこそ、三ヶ月以上持つカップルは見れば分かるの」

 

「……へぇ。まあそこまで言うなら信じるよ」

 

 考えても仕方が無いので、宮瀬のよく分からない理論に納得することにする。


「で、問題は健介の落とし方だよね。健介は確かゲームが好きだったな。スマホで結構やってたよ、FPSとか」

 

「FPSかぁ……桃花ちゃん、そんなに得意そうな雰囲気じゃないよな」

 

「それは分からないよ? 共通の趣味があったら、脈アリへの道が一気に開けると思う」

 

「それもそうだな。とりあえず桃花ちゃんに話してみる」



 ☆



「……FPS? パソコンでならよくやるよ!」


 昼休み。

 健介が宮瀬の元カレである事実は伏せながら桃花ちゃんにゲームの話をしてみると、予想外の返事をされた。


「そうだったんだ。健介はスマホでやってるらしいから、そっちでも始めてみるのはどうかな」

 

「スマホってことは、流行りのミリブレかな? 一緒に出来たら楽しそう!」


 桃花ちゃんは頬を淡く染めて微笑んだ。

 その横顔に、俺は思わず目を細める。


 

 ――俺は恋する女の子の顔が好きだ。

 俺と関わる女の子はみんな、恋より先に背徳感や、他の女の子に対する優越感を抱いている。


 あまり主張の激しい方ではない桃花ちゃんでさえ、俺と連絡先を交換した瞬間はそんな感情を滲ませた。


 もちろん、そんな女の子も魅力的だ。

 

 だが俺と関係を持とうとしていた時の桃花ちゃんより、健介に恋する今の桃花ちゃんの方がずっと可愛い。


 ――俺にとって女の子が一番綺麗に見えるのは、いつだって俺への興味を失った瞬間なのだ。


 

 桃花ちゃんはスマホアプリのダウンロードを終え、ログイン画面をタップした。


「そのゲーム、グラフィックが凄く凝ってるね」


 隣で見ていた俺は感想を零す。


「うん、結構新しいゲームなんだよね。私はやったことないけど……あー、エイムがブレた!」


 桃花ちゃんはチュートリアルでミスをして声を上げるが、それでも初めてにしてはかなり上手だった。


 パソコンでの経験が生きてるんだろうな。


「――やっほ。何してんの?」


 宮瀬が俺の隣にやってくる。

 アシストに入ってくれるつもりなのだろうか。


「え、えっと……」


 桃花ちゃんは目を泳がせた。

 この二人は、互いにクラスメイトではあるがあまり絡みがない。

 まあ性格が正反対に近いからな。

 

 桃花ちゃんは慣れていない相手と話すのが苦手で、話しかけられるとどもってしまったりする。

 俺でも初めの方は少し苦労したくらいだ。


「いや、ミリブレってゲームが流行ってるらしくてさ。桃花ちゃんがチュートリアルをやってみてるところだったんだよ」


 俺が助け舟を出す。

 

「へぇ、全然知らなかった。ちょっと見せて? ……あーこれ、健介がよくやってるやつじゃない?」


 その名前に、桃花ちゃんはびくりと肩を震わせた。


「そ、そうなの?」


 健介がやっていそうなゲームだからと始めた桃花ちゃんだったが、咄嗟に何も知らなかったフリをしてしまう。

 

「多分? ねぇ健介ー、ちょっとこっち来てー」

 

「え、待って……っ!」


 桃花ちゃんがかあっと赤くなり、宮瀬を止めようと声を上げる。

 だがそんな訴えも虚しく、健介は少しだるそうな顔をして近付いてきた。

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