自他ともに認める鬼スペックリア充な俺、女子のお悩み相談室をやっていたら恋のキューピッドを任されてしまう
乃崎かるた
第1話 この世をば 我が世とぞ思ふ
座右の銘は「来るもの拒まず去るもの追わず」。
文武両道、容姿端麗。
家庭の事情で一人暮らしを強いられているという都合の良すぎる身の上で、今まで幾多の女の子を家に連れ込んできた。
――だがここで強調しておきたいのは、俺は断じてヤリチンではないということだ。
ヤリチンとは誰とでも関係を持とうとする男のことを言うが、女の子に対して
女の子からデートしたいと言われればするし、キスしたいと言われればする。
しかし例えお家デートをしていようが、俺から手を出すことは絶対にない。
――まあもちろん、据え膳食わぬはなんとやら。
差し出されたものは有難く頂くが。
この信条だけは守り抜いてきた。
よって俺は断じてヤリチンではない。
証明終了。QED。
――そんな清純派アイドルな俺は、今日も今日とて個別ファンサに勤しんでいた。
時刻は午後八時半。
俺以外に誰もいない部屋の中で、スマホを開いてメッセージアプリの通知をチェックする。
ずらりと並ぶ女の子の名前を一つずつ押し、様々な報告や相談に目を通して丁寧に返信をしていく。
――もちろん、こんなことをするのも純粋な善意だ。
世のヤリチン共とは違ってな。
『気になる人がいるんだけど、どうすれば振り向いてもらえるか分からない……』
――だから、こういったシンプルな激ダル案件にも誠心誠意対応する。
「……なんだこれ」
思わずそう呟いてしまったことは許して欲しい。
――お悩み相談をしてくれたのは、同じクラスの
桃花ちゃんは、クラスでは少し目立たない位置にいる女の子だ。
彼女の連絡先を持っている男子なんて、多分圧倒的なコミュニケーション能力がウリの俺くらいのものだ。
だが、目の肥えまくった俺にも桃花ちゃんは普通より可愛く映る。
相手によっては十分射程圏内だろう。
『アプローチの仕方は人それぞれだし、それが効くかどうかも場合によるんだよね。だから具体的な案を出すのは難しいけど、とりあえず話しかける回数を増やしてみるのはどうかな』
『うーん……あのね、気になってるのは
……わーお、お相手のお名前頂きましたっ。
いや、正直「好きな人はキミだよ!」的なのをほんのり期待していなかったと言えば嘘になる。
まあもちろん、そんなことで挫ける俺ではないが。
しかし困ったな。
その状況はどうしたら良いか分からん。
――俺はまず追う恋愛というものをしたことがない。
それ以前に、彼女がいた事もない。
そう言うと驚くやつもいるが、俺としては当然のことだ。
彼女がいれば俺のやってることは紛れもない浮気だからな。
誠実さでは右に出る者のいない、謹厳実直極まりない生活をしている俺が、浮気なんて低俗なことをするなどありえない。
それに、俺には恋がどんなものなのかがよく分からない。
女の子はみんな可愛いし、彼女らの願いは何でも聞いてあげたい。
だが彼女らのことが「好き」なのかと聞かれると、そうだと自信を持って答えることは出来ないのだ。
『――健介か。良いやつだもんね。どうすれば良いかちょっと考えるから、少し待っててもらえるかな』
――経験に乏しい俺は仕方なく、最終手段である回答期限延期作戦に出た。
☆
翌日。
始業時刻一時間半前の教室は、涼やかな朝の空気に包まれていた。
俺は欠伸を噛み殺しながら席に荷物を置く。
「――おはよ、
「――おはよう、
教室にたった一人でいた少女が、俺に声をかけてきた。
彼女には毎日、朝早く学校に来て読書をする習慣がある。
色素の薄いセミロングの髪に、黒目がちな二重瞼の目。
非の打ち所のないその容姿は、さすがに学年一の美少女と言われるだけある。
……それを利用して男を取っかえ引っ変えにしているのが玉に
そんな同じクラスの女子生徒、
「……こんなに早く学校に来るなんて珍しいじゃん。昨日連れ込んだ子は早起きだったの?」
こいつには星の数ほどの元カレがいるが、本人曰く浮気は一度もしたことがないらしい。
だから、複数の女の子と同時に関係を持つ俺のやり方が気に食わないのだと。
だが俺に言わせれば、そんなことは自慢にもならない。
浮気とは、彼氏の存在をキープしながら別の男に手を出すということだ。
しかし宮瀬は彼氏と別れてもすぐに別の男を作ることが出来る。
――浮気なんてする必要がない。
だから浮気をしないだけなのだ、こいつは。
「――失敬な。昨日は誰も連れ込んでないよ」
「昨日『は』連れ込んでないんだ。……はぁ、なんでこんなやつと一緒にされなきゃいけないの」
俺たちは、人目を引く容姿とその
「宮瀬が短期交際を繰り返すからだろ。三ヶ月も持ったことがないって噂になってるぞ」
「……それはまあ、事実だけど」
「マジか。じゃあもしかして、キスもまだ?」
宮瀬は前に、三ヶ月以上付き合った男としかキスはしないと言っていた。
「したことないよ。女のファーストキスはそんなに安くないの」
「高すぎだろ……」
俺がボヤくと、宮瀬は小さく笑って頬杖をついた。
「一緒にいたい、って思うことはあるんだけどね。彼氏に対して『好き』って思ったことは、もしかしたら無いかもしれない。そう思うと、キスしてもらうのも申し訳なくなっちゃってさ。――ねぇ、『好き』ってどんな気持ち?」
「……さぁ。俺にも分からない」
「――酷いね、私たち」
「――酷いな、俺たち」
一瞬の沈黙が、教室の中を通り抜ける。
「……なぁ宮瀬。今日早く学校に来たのは、君に教えて欲しいことがあったからなんだ」
「ふーん……彼女の作り方?」
「いや、彼氏の作り方」
「は? まさか、モテすぎてとうとう女の子に飽きて……」
「ちげぇよ! 好きな人と付き合うにはどうすれば良いか、相談してきた子がいてさ」
「あー、そういうことね。びっくりした」
「勘弁してくれ……」
俺がため息をついていると、宮瀬は少し考える様子を見せた。
「――あのさ。相談してきたのって、もしかして桃花ちゃん?」
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