165 人材の宝庫?
とは言え、折角の焼肉食べ放題。
話ばかりで食事を疎かにするのは、店にも藻峰さんにも失礼というものだろう。
飲食店としてのプライドにも関わってくる。
なので、食べ放題の対象となっている肉をガンガン注文して焼いていく。
「皆さん、俺達に遠慮しなくていいですからね。お酒を飲める人はアルコール飲料を頼んでいただいても全然構いませんので」
「じゃ、じゃあ。私はちょっと飲ませて貰おうかな」
3年生で20歳の大島さんがおずおずと手を挙げる。
もしかすると、緊張気味なのをお酒で紛らわそうとしているのかもしれない。
だとすると大丈夫だろうかと石嶺さんをチラッと見る。
しかし、彼に動じた様子はない。
とりあえず飲ませてはいけないタイプの人ではなさそうだ。
であれば問題ないだろう。
「折角の飲み放題ですから、どうぞどうぞ。皆さんも」
「でもでも、20歳未満の人は飲酒ダメ絶対、だよ!」
と、藻峰さんがちょっと厳しめの口調で注意をする。
サークルのメンバーとしてよりも、店側の人間としての言葉に違いない。
彼女の場合、余計なトラブルは生活に直結する問題にもなりかねないからな。
そうやって念押しするのも当然のことだろう。
「…………陸玖ちゃん先輩、間違えて飲んだりしないようにして下さいね」
「野村君、私を何だと思ってるの?」
「いや、たまにテンションが急に上がって暴走する時があるじゃないですか。もしかすると、勢い余って他人のお酒を飲んだりするかも、と」
「ん。あり得る」
「さすがにあり得ないよ! もう!」
俺とあーちゃん2人からの弄りに、陸玖ちゃん先輩は憤慨したように言う。
しかし、どことなく嬉しそうでもある。
顔を合わせてそんなやり取りをするのは随分久し振りだからかもしれない。
そんな俺達の様子を、大島さんが目を丸くしながら見ていた。
「どうしました?」
「いえ、思っていたよりもずっと仲がいいみたいで少し驚きました」
「まあ、5年つき合いがありますから。高校では丸4年一緒に活動してましたし」
「元々は珍プレー愛好会、でしたっけ」
「ええ。俺達が押しかけていって……陸玖ちゃん先輩には色々迷惑をかけました」
「そ、そんなことないよ! 野村君達のおかげで、貴重な体験ができたし」
慌てたようにフォローを入れてくれる陸玖ちゃん先輩。
本当にそう思ってくれているのなら、とてもありがたいことだ。
彼女も彼女で、俺の色々に巻き込んでしまった1人だからな。
その人生がよいものになるように、できる限りのことはしたい。
……とは言え、今日この場所には、陸玖ちゃん先輩との思い出話や彼女の今後についての話をするために来た訳ではない。
一先ず、ここら辺にしておこう。
「羨ましい関係性ですね」
「俺としては皆さんともそれぐらいの仲間になることができればと思っていますので、まずはもっと砕けた感じで接して欲しいなと。俺達の方が年下なんですから」
「い、いや、ですけど……」
「先輩の先輩なんですから。お願いします」
「わ、分かりました」
「いやいや、丁寧語……」
了承しておきながら全くできていない大島さんに思わず突っ込みを入れる。
うーむ。
ファンという認識に留まってしまうと、年上年下関係なく腰が引けちゃうか。
であればと澄ました感じの女子大生に視線をやる。
ステータスを見るに名前は佐藤御華さん。
何となく、彼女ならば意をくんだ応対をしてくれそうな気がする。
「……彼がそう言ってるんだから、いいじゃないですか。代表」
果たして佐藤さんは軽い口調で大島さんにそう促す。
それからこちらへと顔を向けた。
「ところで、2人の関係ってインタビューとかで言っている通りなの? もう間もなく結婚するって本当?」
おおう。いきなり突っ込んできたな。
敢えてなのか、野次馬根性なのか。
まあ、どちらにしても。
それぐらいやってくれた方が打ち解けやすい空気ができあがるか。
「ええ。8月になったら彼女が18歳になるので、それに合わせて籍を入れるつもりでいます。結婚式は……シーズンが終わってからで検討中です」
あーちゃんが隣で背筋を伸ばし、正にその通りと肯定するようなドヤ顔をする。
「そ、そうなのね」
恥ずかしげもなく応じる俺達の姿に、少し怯んだ様子を見せる佐藤さん。
さすがにこのノリはまだ灰汁が強過ぎるか。
「2人共、ラブラブだぁ」
しかし、藻峰さんの方は何やら楽しそう。
お酒は……入ってないな。
19歳だし、自分で未成年飲酒厳禁を謳っていたのだから当然か。
つまるところ、彼女は素の状態でノリのいい子なのだろう。
「まあ、何にせよ、後輩だと思って仲よくして下さい」
「オッケー」
「トッププロになれる逸材が後輩ポジション……悪くないわね」
「大島さんも」
「う、うん、分かった。そうする」
ハイボール1杯の力を借りたおかげか、ようやく大島さんも普通の口調になる。
よし。本題の方に話題を寄せていくとしよう。
「じゃあ、折角ですから、自己紹介をして下さいませんか?」
「ええと、そういうことなら、まずは私からだよね。普通に考えて」
そう口にしてから、大島さんは意を決したように隣で立ち上がった。
サークルの代表だからな。
1番手はやはり彼女だろう。
「私は大島仁愛。人文学部の3年生でスポーツと歴史、地域の関係を主に学んでいて、目下の興味は村山マダーレッドサフフラワーズの動向かな」
学年以外は連絡先を交換した際に聞いた内容ほぼそのままだ。
続いて、奥で気配を抑えていた石嶺さんが腰を上げる。
威圧感が店全体をちょっと圧迫する。
「俺は石嶺轟。同じく人文学部の3年生だ。スポーツと経済の関わりについて学んでいる。近年はよくも悪くもリーグの流動性が低かっただけに、村山マダーレッドサフフラワーズの活躍には注目している」
こちらも前に聞いた通り。
確かこの大学には経済学部がなく、人文学部の1学科としてあるんだったか。
学部学科の割り振りは割と大学毎に異なっていたりするからな。
入学する時に調べないと結構痛い目を見たりすることもある。
それはともかくとして。
彼が座ると、サークルメンバーの間で視線が飛び交った。
次に誰が自己紹介するべきか迷っているようだ。
「普通に考えたら学年順で3年生からでしょ。青木君と柳原君、お願い」
「ああ。了解」「分かった」
大島さんが指示を出すと、隣同士に座っていた男子学生2人が頷いた。
2人共、線は細いが……あれは中々鍛えているな。
着痩せしているタイプだ。
「俺は青木
「僕は柳原
「俺達は医学部の3年生で理学療法士の資格取得を目指している。その上で、サークルでは俺の方は効率的なスポーツトレーニング方法を」
「僕は怪我しにくいトレーニング方法とリハビリテーションの研究をしているよ」
成程。
どうやらスポーツトレーナーを目指しているようだ。
……ってか、何か妙に距離が近いなこの2人。
青木さんの方は柳原さんの腰に手を回しているし。
いや、まあ。敢えて何か言う必要はないか。
そもそも勘違いかもしれないし、だからどうということもない。
しかし、彼ら。【生得スキル】持ちだ。
青木さんは【ツボを押さえた指導】【医師の瞳(野球)】、柳原さんは【再生工場】という名称がステータスのスキル一覧に記載されていた。
【ツボを押さえた指導】はトレーニングの指導をした際に対象の【経験ポイント】取得量にプラス補正をかけることができるというもの。
【医師の瞳(野球)】は野球選手に関わる怪我の軽重、完治の可否を判断できる。
【再生工場】は怪我の治りを早め、過去のステータスの最高値までの消費【経験ポイント】を大幅に軽減するというものだ。
進路と合致している。
もしかしたら、高校までの間に何か首尾よくスキルが作用してうまいこと行った経験でもあるのかもしれないな。
それが切っかけでこの道を志した、みたいな。
「……理学療法士ということは4年制の学科ですか?」
「そうなるな」
医者を目指す医学部医学科は6年制。
だが、看護師や理学療法士といった職を一般大学で目指すのであれば、該当する4年制の学科に入ることになる。
ちなみにキャンパスは陸玖ちゃん先輩が通っているところとは別だ。
ただ、車で10分ぐらいと割と近いところにあるので、強い動機があればこちらのサークルに所属していても不思議ではない。
しかし、有用な【生得スキル】持ちのスポーツトレーナーか。
是非とも欲しい人材だ。唾をつけておこう。
「もし理学療法士の資格を取れたら、村山マダーレッドサフフラワーズのスポーツトレーナーになることも検討していただけますか? 俺が口利きしますので」
「本当か?」
「ええ。ただ、最後はお2人の人柄と実力次第になりますが」
「それは当然だね。けど、機会を貰えるだけありがたいよ。ね? 斗真」
「そうだな、奨。大学を卒業する時には1部リーグにいるかもしれないしな」
少し興奮したように言いながら視線を交わす2人。
……うむ。
互いに強い信頼関係があることは間違いない。
それはよいことだ。
いずれにしても、2人共乗り気なようで、こちらとしても非常にありがたい。
有能なスタッフは何人いてもいいからな。
チームにとっても、日本野球界にとっても。
「また後で連絡先を交換させて下さい」
「ああ!」「勿論!」
さて、サークルのメンバーはまだまだいる。
気になる人もまだいる。
陸玖ちゃん先輩切っかけで得られたありがたい出会いだ。
十二分に活用させて貰おう。
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