067 プチバズりの影響?

「え、ええと、確か諏訪北すわきたさん」

「諏訪北ー、美瓶みかめだよー」


 最初に話しかけてきた、やや小柄な女の子が自己紹介をする。

 彼女は昇二の前の席の子だ。

 あーちゃんの2つ後ろの席でもある。

 のんびりとした話し方が特徴的。

 垂れ目で、顔つきからもおっとりしていそうな印象を受ける。

 ただ、4人の会話を聞いていると、意外とズケズケ言う感じがあった。


泉南せんなんさん」

「はーい、泉南琴羅ことらでーす」


 適当に手を挙げて返事をしつつ、自分の名を告げる泉南さん。

 彼女は昇二の後ろの席の子。

 見るといつも明るく笑っていて、お調子者という印象がある。


佳藤かとうさん」

「佳藤琉子りゅうこ。よろしく!」


 ビシッと敬礼をして言う佳藤さん。

 昇二の右隣りの席の子だ。

 4人の中で一際声が大きく、いかにもな元気っ子という感じ。


仁科にしなさん」

「仁科すずめです。よろしくお願いいたします」


 最後は昇二の左隣りの席の子。

 常に丁寧語。

 そこから受ける印象の通り、礼儀正しく頭を下げてくる。


「それで、アレって言うのは?」

「勿論、あの拡散されてた動画でノックしてた人のこと!」


 言いながら、泉南さんがビシッと俺を指差してくる。


「人を指差すのはー、失礼だよー。無礼千万ー」

「おっとっとー、ごめんごめん」


 諏訪北さんに注意され、調子よく謝りながら手を引っ込める泉南さん。

 やっぱり何かノリが軽いな。


「プロ野球珍プレー愛好会の動画のことなら、そうだけど」

「そうそれ! 無回転の打球を意図的に打てるなんて凄いねー!」

「え、えっと、ありがとう」


 今一意図が分からないが、褒めてくれたのだから感謝しておく。


「あれってホントに編集なしなの? 成功するまで取り直してたんじゃなく?」

「ストップ。琴羅に話をさせると話が進みません」

「休み時間がー、終わっちゃうよー」

「ならアタシが! 野村君、アタシ達もプロ野球珍プレー愛好会に入ろうと思うんだけど、どうすればいいかな!?」

「え」


 代表して尋ねてきた佳藤さんの言葉に一瞬虚をつかれる。

 正直なところ、あの動画の公開を許容した理由の1つとして、プロ野球珍プレー愛好会の学内での知名度を上げることも頭の中にあった。

 勧誘の成功率を高めるために。

 しかし、こうも急に効果が出ると驚かざるを得ない。

 SNSの影響力は想像以上に大きいな。


「あー、虻川先生に野球部の入部届を出して、プロ野球珍プレー愛好会に入るって言えばいいよ。後は部室に来るだけ」

「そっか! ありがと!」


 佳藤さんが笑顔で礼を言うと、4人はまとめて自分の席に戻っていく。

 一気に静けさが戻る。

 まるで嵐が過ぎ去った後の気分だ。


「……凄い圧だったわね」

「ああ、ホントに」


 さすがに異性4人に囲まれてはビビらずにいられない。

 あーちゃん、美海ちゃんと今生では女の子と割と深い関わりがあっても。

 明らかな陽の者っぽい気配にはどうにも気後れしてしまう。

 こればかりは仕方のないことだ。


「あら、茜。先を越されたわね」

「むぅ。ガードされた……」


 そこへあーちゃんがやってきて、不満を訴えるような声を出した。

 いつもは休み時間になるとすぐ傍に来る彼女。

 だが、今回は4人に妨げられて近づいてこられなかったようだ。


 ……あの子達、授業が終わった途端に来たからな。

 物凄い勢いで。

 さすがのあーちゃんも距離の差は覆せなかったようだ。


「しゅー君」


 彼女は何かを求めるように頭を差し出してくる。

【以心伝心】で伝わってきたので、俺は苦笑気味に彼女の頭を軽く撫でた。

 既に休み時間も終わりかけなので、何かを急速チャージしているつもりらしい。


「もう、時間……」


 やがてチャイムが鳴り、彼女は肩を落として自分の席に戻っていった。


「茜は全くもう。困った子だわ」


 やれやれと嘆息する美海ちゃん。

 それから彼女は考え込むようにしながら続ける。


「にしても、男女比が尚更おかしなことになるわね」

「いや、まあ、俺としては数が揃えばどっちでもいいけど」

「それはそうかもだけど……続くのかしらね。あの子達」


 さっきの会話からミーハーな感じを受けたのだろう。

 美海ちゃんは何とも訝しげだ。


「うーん……」


 ちょっと返答に困る。

 俺も確かに野次馬根性的な気配は感じていたから。


 とは言え、きっかけと実際のモチベーションはまた微妙に違うものだ。

 志望動機を聞くまでは、安易に決めつけない方がいいだろう。


 そんなことを考えていると、先生が定刻から少し遅れて教室にやってきた。

 どちらからともなく会話をやめ、前を向く。


 人を増やすのは計画の内。

 とは言え、人が増えれば色々と問題が出てくるものだ。

 急な増員ともなれば尚のこと。

 ちょっと人間関係に注意を向けておいた方がいいかもな。

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