011 原因不明の奇病
「茜ちゃんが来てから、何だか秀治郎君が落ち着いてくれた気がするわ」
「まるで妹ができたお兄ちゃんみたいね」
茜ちゃんのために折り紙を折る俺を見ながら保育士さん達が微笑ましげに言う。
しかし、申し訳ない。
俺の希望としては、いずれは茜ちゃんにも元気に動き回って【経験ポイント】を稼いで貰いたいのだ。
今は仲間を増やすための、言わば雌伏の時に過ぎない。
望みが叶えば、腕白幼児が2倍になってしまうのだ。
…………今の内に、もう一度心の中で謝っておこう。
本当にごめんなさい。
クレームは野球狂神へお願します。
それよりも重要な問題は、茜ちゃんが俺を鬱陶しいと思っていないかどうかだ。
ちょっと干渉し過ぎかな、という危惧も少しあったが……。
「いつもありがとね。秀治郎君」
「ううん。僕も楽しいから」
「茜もね。秀治郎君が遊んでくれて嬉しいって思ってるのよ」
茜ちゃんの母親、鈴木加奈さんの言葉に茜ちゃんも最小限の動作で頷く。
ありがた迷惑ではないようで一安心だ。
まあ、ステータス画面で分かっていたことでもあるけど。
状態/戦績/▽関係者/プレイヤースコープ
・鈴木茜(成長タイプ:マニュアル) 〇能力詳細 〇戦績
BC:6 SP:5 TAG:9 TAC:8 GT:13
PS:20 TV:10 PA:6
残り経験ポイント:0 好感度:82/100☆
【好感度】が50を超えた時点で【関係者】に表示されるようになり、80を超えたところで【☆】がついた。
他の子に比べて随分と【好感度】が上がり易かったが、唯一の友達というような状態だと考えれば当然か。
皆、茜ちゃんがいる環境に慣れてきてはいるが、一緒に遊ぶとまではいかない。
彼女は自発的な動きがほとんどできないから、中々3歳児がつき合うには厳しいところがあるだろう。
「……茜も皆と一緒に遊べたらよかったのにね」
ポツリと呟く加奈さん。
思わず零れてしまった本音なのだろう。
彼女はハッとして、否定するように首を横に振る。
茜ちゃんには聞かせたくなかったに違いない。
恐る恐るという感じで、視線を落とす。
茜ちゃんは、表情を変えるのも疲れるのか無表情だ。
けれど、どことなく悲しそうに見える。
……打算で近づいた訳だけど、さすがに可哀想だ。
何とかしてあげたい。
どうも茜ちゃんのような状態は、原因不明の奇病として認知されているらしい。
臓器に何かしら異常があるとかではなく、医学的には間違いなく健康体のはずなのに、ひたすら体力がないのだとか。
前世に似たような事例があったかは分からないが、この世界では何万人かに1人の割合で発症するそうだ。
割と知られている病だと耳にした。
治療法はなく、ほとんどの場合、幼くして亡くなってしまう。
たとえ生き残っても、多くは普通の生活を送ることはできない。
成長するにつれて治っていくケースも極稀に報告されているそうだが、根治の理由は全くの不明。
奇跡でも起きない限り、彼女は一生このままだ。
そう考えると、俺の使命や計画とは関係なく健康になって欲しいと思う。
そんな純粋な気持ちも俺の中には芽生えていた。
「大丈夫。きっと元気になるよ」
子供の無責任さを演じ、今は益体もない慰めの言葉を口にする。
加奈さんは曖昧な笑顔を浮かべることしかできない。
子供相手では、気休めはやめろと怒る訳にもいかないだろう。
けど、俺も口だけのつもりはない。
何故なら、この奇病の原因に俺は心当たりがあるからだ。
多分、【マニュアル操作】を持つ限られた人間にしか分からないに違いない。
改めて彼女のステータスを見る。
やはり変化はなく、【Total Vitality】がたったの10しかない。
【体格補正】と【年齢補正】をかけると、多分1か2ぐらいだ。
俺がこの世界に生まれた時、【Total Vitality】が低過ぎて危うく死にかけた。
多分、彼女の数値は正に生と死の境界ぐらいにあるのだろう。
だから、生命活動はギリギリ維持できているが、動き回る程の体力はないのだ。
ステータスを見ることができなければ、原因が分かろうはずもない。
正に原因不明の奇病と言えるだろう。
しかし、原因が分かってしまえば治療法は単純。
【Total Vitality】の数値を上げればいいだけだ。
上げればいいだけ、なのだが……。
普段から動き回ることができない彼女の【経験ポイント】は0。
まず【経験ポイント】を稼がなければならない。
けれども、無理に運動させるのは余りにも酷過ぎる。
下手をすると命に関わるかもしれないのだから。
これでは【Total Vitality】を上げられない。
【Total Vitality】を上げることができなければ動くことができない。
【経験ポイント】を稼げない。
堂々巡りだ。
こうなると【経験ポイント】を稼がずに彼女のステータスを上げる裏技が必要だ。
そんな方法があるかと言えば……。
「大丈夫。手はある」
これもまた【マニュアル操作】を持つ、限られた人間にしかできないことだろう。
「俺が、何とかする」
だから俺は前世の口調と共に、2人には聞こえないぐらいの小ささで呟いた。
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