012 おまじない

 さて。

 ここで久し振りに俺のステータスを表示しよう。


☆成長タイプ:マニュアル

☆体格補正値 -60%

☆年齢補正値 -40%

残り経験ポイント49

【Bat Control】▼△

   1(G)

【Swing Power】▼△

   1(G)

【Total Agility】▼△

   1(G)

【Throwing Accurate】▼△

   1(G)

【Grabbing Technique】▼△

   1(G)

【Pitching Speed】▼△

   10     

【Total Vitality】▼△

   973(SS)

【Pitching Accurate】▼△

   1(G)

ポジション適性へ⇒

変化球取得画面へ⇒

スキル取得画面へ⇒

その他⇒


 後ちょっとで【Total Vitality】がカンストする。

 茜ちゃんと出会うまでは、全ての【経験ポイント】をそこに注ぎ込んできた。

 けれども、今は。

 俺は我慢して【経験ポイント】を貯め込んでいた。

 全ては茜ちゃんが普通に運動できるようにするためだ。


 保育園では茜ちゃんと一緒に過ごし、家ではひたすら動き回り続ける。

 いつも以上に。執拗に。

 さすがの母さんもちょっと奇異の目で俺を見てきた。

 だが、それも今日までのことだ。

 多分。きっと。


 …………そろそろ行けたかな?


☆成長タイプ:マニュアル

☆体格補正値 -60%

☆年齢補正値 -40%

残り経験ポイント50

【Bat Control】▼△

   1(G)

【Swing Power】▼△

   1(G)

【Total Agility】▼△

   1(G)

【Throwing Accurate】▼△

   1(G)

【Grabbing Technique】▼△

   1(G)

【Pitching Speed】▼△

   10     

【Total Vitality】▼△

   973(SS)

【Pitching Accurate】▼△

   1(G)

ポジション適性へ⇒

変化球取得画面へ⇒

スキル取得画面へ⇒

その他⇒


 よし。想定通り。

【経験ポイント】が50になった。

 これで準備は完了。

 後は明日、茜ちゃんに会って最後の仕上げをするだけだ。

 運動を切り上げ、寝る準備をして床につく。


 そうして翌日。

 保育園。自由遊びの時間。


「茜ちゃんは動けるようになりたい?」


 絵本を1冊読み終わったところで俺は尋ねた。

 無神経と捉えられかねない質問に加奈さんが一瞬眉をひそめるが、今は無視だ。

 まず本人の気持ちを確認しておく必要がある。

 ある意味、彼女の人生を俺の都合で捻じ曲げてしまう訳だから。

 同意なく、勝手に実行する訳にはいかないだろう。

 ……まあ、答えは分かり切っているけれども。


 果たして。茜ちゃんは今までになく目に力を込め、僅かに頷いた。


 うん。愚問だな。


「じゃあ、おまじないしてあげる」


 俺は彼女にそう笑いかけ、ガラス細工を扱うように力のない手を取った。

 同時に【マニュアル操作】で【通常スキル】の1つを入手する。


▽取得スキル一覧

  名称    分類

・幸運の置物 通常スキル


 それから茜ちゃんのステータスを見る。


状態/戦績/▽関係者/プレイヤースコープ

・鈴木茜(成長タイプ:マニュアル) 〇能力詳細 〇戦績

 BC:6 SP:5 TAG:9 TAC:8 GT:13

 PS:20 TV:10 PA:6

 残り経験ポイント:0 好感度:84/100☆


 ここで【好感度】の数字の横にある【☆】を選択。


『バフ:ON/OFF』

『デバフ:ON/OFF』


 出てきた表示を受け、【バフ】をONにする。

 それと同時に。


「茜ちゃんが、元気になりますように」


 俺がそう告げると、茜ちゃんは無表情を崩して驚いたような顔をした。

 彼女は戸惑いの表情を浮かべながら、俺の手を支えに立ち上がろうとする。


「え? ……え? あ、茜?」


 すぐに体を支えられなくなり、加奈さんの膝に尻もちをついてしまう茜ちゃん。

 だが、そんな僅かな動作すら、生まれてこの方してこなかったのだろう。

 できなかったのだろう。

 呆然としていた加奈さんの目がみるみる内に潤んでいく。


「茜……」

「……マ、マ」


 生まれて始めて音を発したかのような、たどたどしい声。

 それと共に茜ちゃんはゆっくりと手を伸ばした。

 今にも泣き出しそうな母親を慰めようとするかのように。


「ママ?」


 続けて、もっとハッキリと呼びかける茜ちゃん。

 心配の色が声に滲んでいる。


「茜、茜……」


 それが最後の一押しになったのだろう。

 加奈さんの頬に涙がとめどなく流れ落ちた。

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