勇者は魔王と相討ちになりました

ノンギーる

第1話 消えろ魔王、勇者よさらば!

 勇者が魔王に捕まった。即ち人類滅亡の危機である。


 偉大な神の加護によって勇者は絶大な力を持ち、決して死ぬことがない。

 それゆえに人知の及ばぬ力を持つ魔王すら、勇者を殺すことができず滅ぼされてきたのだ。

 

 しかし歴代の魔王も馬鹿ではない、不死の勇者を倒そうと今まで様々な方法を試してきたのだ。

 刺殺、撲殺、焼死、溺死、谷底への滑落死、毒、氷結、粉微塵、婚約者NTR脳破壊、感度3000倍アヘ顔ダブルピース、TSメスガキ化からの魔王棒わからせ……


 肉体か精神の破壊を目論み様々な手段で勇者を絶望へ突き落してきたが、勇者は決して折れず何度でも蘇り立ち上がり、魔王を討伐してきた。


 勇者は無敵だった。


 ならば捕まえるなり封印するなりして勇者の無力化すればいい。そう魔王が考えるのは分かり切ったことだった。

 

 当然ながら人類もそのことを理解していたので幾十もの対抗策を用意していたのだが、裏切り者によってその策はことごとく破られ、あえなく勇者は魔王に捕まってしまった。


 裏切ったのは勇者ハーレムの女性達だった。

 決してNTRたり催眠落ちしたりせず、勇者一筋を貫けるよう厳選されたメンバーであり、彼女達が勇者を裏切るとは誰も考えていなかった。


 それが間違いだったのだ。

 彼女たちは勇者を深く愛しているが、それゆえに勇者一人に全てを押し付け戦わせる人々が嫌いだったし、勇者が死ぬことを望まなかった。


 勇者と私達さえいればいい。他なんてどうでもいい。魔王を倒せば勇者の不死身が消えるというのなら、魔王を倒さず不死のままでいい。


 彼女等は最後まで勇者の味方だった。裏切ったのは人類だけ。


 こうして勇者は魔王の手に渡り、その身柄は魔王の側で守られ、救出はほぼ不可能となってしまった。

 

 勇者という希望は人類の手から零れ落ち、もはや取り戻せない。


 なんということか。

 人類は愛を利用して勇者を守ろうとしたが、その愛の深さを見誤ったがゆえに滅ぶというのか?


 否。


 人類が彼女たちの愛を過小評価していたように、彼女等と魔王も人類の果てしない悪意を軽んじていたのだ。


 ――それは勇者が暴走した時のために用意されていた保険だった。

 

 魔王を殺害した勇者が、魔王以上の脅威となって人類と敵対した場合に備えて。

 各国の国王たちを超える人気を得た勇者が、世界を統べる王になる可能性を潰すため。


 確実に勇者を殺せる方法が必要とされ、知恵と資源を惜しみなく注ぎ込み用意された非人道的手段。

 

 開発以降、歴代勇者が神に選ばれた際に人類からの祝福として勇者に組み込まれた呪いが、この絶望的な状況を打開するため発動された。



 後の歴史書にはこう書かれている。


 魔王の策略によって孤立し絶対絶命の危機に陥った勇者アレスであったが、彼は諦めることなく戦い続け、ついには単身魔王城へと乗り込み魔王と相対した。

 

 その戦いがどのようなものであったか、知る者は誰もいない。

 

 しかし魔王城で起こった度重なる爆発、それが終った後に駆け付けた勇者パーティが魔王どころか勇者の死体すら確認できなかった事から、お互いが消滅するほどの熾烈な戦いが繰り広げられたのは間違いない。


 偉大な勇者アレス。勇者の役目を果たした彼は神の庭へ迎え入れられ、先代の勇者たちと共に人類を見守り続けてくれるだろう。



 ………

 ……

 …


 なお勇者パーティの中には、魔王城跡地でぐちゃぐちゃの肉塊が爆発したのを見たと報告する者がいたが、勇者死亡のショックによる一時的な錯乱による幻覚である可能性が高く、考慮に値しないものとして抹消された。

 人類を裏切った者たち同じように、歴史に残す意味はないのだから。

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