第三章 ボクと俺、それから私

第17話旅立ちの希望



「これから、どこに行くべきか……」



顎に手をあてて、今後の方針の定めどころを考える。

アルフレッド、エル、教会の動き、そしてアンゴレウスの騙し方。

それらを加味して俺たちは、どこの綱を渡るべきか思案している最中だった。


「どこに行くべきかって……何か探してるの?」

「あぁ、いや……うん、そうだな。

今、頼れそうなやつを探してるんだ。

2人か、3人……生きてそうなのは、それくらいかな」

「連絡は取れないの?」

「あぁ、どこにいるかも分からん」

「なら、手っ取り早いのは暗殺者を雇うことね、

生きていたら殺したって報告が来るし、すでに死んでいたら、死んでいたって報告が来るわ」


俺のベットに寝そべりながら俺の指の骨をしゃぶっているマリオネッタが冗談めいた口調で言った。


「馬鹿か、お前……

頼れる仲間殺してどうすんだよ……」


大袈裟に彼女は、口に手を当てる。


「じゃあ、本当に世界中を探し回ってみるしか無いわね」


「道は険しいな……

そうだ、お前をアンゴレウス司祭に売って、旅のもとででも作ろうかな……」

「何を言っているのかしら、夜桜亜貴よずくら あき

私は何時でもアンゴレウス、それから、この村の人間全員を食い殺してもいいのよ?

それに、そんなことをしたって、意味はないのだけれど」


同じく冗談を言っただけなのに、なぜ俺だけこう言われなければならないのだ。

普通に酷い。


「はいはい、わかったよ。そんなことはしない」

「じゃ、決まりね♡」

「は?」


────────────



「と、いうことで……

私が犯人です☆」



こいつ……やりやがったぁぁぁぁ!!!???

馬鹿か?

コイツ、自分がどれだけのことをしたのか分かってるのか?

村の働き手を全員殺して、挙句の果てには村長も殺した大罪だぞ!?


「そうですか、見つけてくださって有難うございます、夜桜様」


は?なんでコイツは俺に感謝してるんだ?

あまりのコイツの間抜けさに脳が破壊された……?

咄嗟に彼女の首根っこを掴み、後ろへ下がる。


「おい!お前、馬鹿なのか!?

自分が何したのかわかってんのか!?

お前多分殺されるぞ!?」

「何を言っているのかしら、この人は教会の人間なのよ?」


頭に[??]を浮かべるマリオネッタに、俺はさらに追撃する。


「お前は!人を!殺したんだよ!!

だからお前、普通に裁かれるだろ!?司法……」


教会に、なのか?そこの仕組みは、未だに俺は知らない。

ローザでは、階級ごとに3つの基準で裁かれていた。

一つは貴族、2つ目は王族、3つ目はその他諸国民。

もちろん、人間以外の種族もこの枠に含まれていた。

だから、人を殺した罪への罰はかなり重い。


「あぁ、あなた、ローザ出身だから知らないのね。

一応、"吸血鬼ヴァンピール"の吸血行動による死は、自然摂理とみなされて、問題にはならないのよ」

「なん……だと……?

だったらお前……隠れて、あんな地下施設まで作って吸血を……?」

「まず世間体が悪いから、お隣さんが実は吸血鬼で、たまに殺そうとして来るって、嫌じゃない?」


なるほど、どうやら自分が疎まれる存在である自覚はあるらしい。


「それに私、吸血したら殺しちゃうもの。

それと、地下はあったから使っただけよ?

400年前の星戦の時に使われたものっぽいけど……

ま、私の世代じゃないから、詳しいことはさっぱり」


「ほぉ、なるほどなるほど、この世界って思ったより……というかかなりのイカレ具合なのか……?」


ヴィクトリアが死んだときも、ローゼンタールが攻め込んできたときも、そんな感慨は湧かなかった。

だが、世界の事を改めて俯瞰して分かる。

元の世界の価値観との乖離を感じて、それが一気に現実味を帯びる。


恐怖は感じない。


「それと、私とこの人で旅に出ようと思っているの、もうこの村の人達を襲いたくはないし……」


彼女はくるりと体を180度回転させ、アンゴレウスを下から見つめる。

また、アンゴレウスも彼女を上から見つめていた。


「……えぇ、良いですよ、紛れもない貴方様の頼みなら」

「やった♡」


トントン拍子で話が進む。その会話に俺は入れそうにもなく、ただただ天井のステンドグラスを見つめていた。


──────────


「いってらっしゃいませ」


出発は深夜、みんなが寝静まった頃に村を出た。

俺たちを見送ってくれたのはアンゴレウス司祭ただ一人。

その他の村人は、身内を殺されているのだから、当然見送ってくれるはずもなく、新しい旅路の門出は、とても寂しいものになった。


「世界中を巡るっつっても、どこから行けば良いのかさっぱりなんだが……」


意外にもその答えは、マリアから返ってきた。


「そっ、それなら……ろ、ロマジサ大陸にあるきっ、記憶推定調査所……通称、わ、WMM……」

「WMM?」

「ワ……ワールド・メモリー・マーケットという

カタニア魔法都市……」

「あぁ、頭文字を取ってWMMってわけか」


WMM……もしかすると、あいつもここへ向かってるかもしれない。

……王国の皆を探すために。


「え、というかマリア、お前あいつになってる時の記憶、あるのか?」


さっきの彼女の発言から推測するに、俺が人探しを目的に世界中を回ろうとしていることを分かった上でこんな提案をしているのだろう。


「あっ、えと……

多分、彼女の存在を認識することで、記憶の障壁がなくなったんだと思います……

昔の記憶も、一気に私に流れ込んできました」

「……辛く、ないのか?」


それは、マリオネッタの記憶、つまりは村人を惨殺した記憶が一気に流れてきたということだ。

普通なら一時的にだろうが、発狂してもおかしくはないだろう。


「……えぇ、なぜか……彼女の気持ちが、ちょっとだけ……分かるんです。

彼女の感情も流れてくるのでっ、」


俺はそれ以上何も言えなかった。


やはり、気まずい沈黙を耐える気力は俺には無かったのか、それを破った。


「……そうとなれば、早速向かおう」

「は、はい!で、ですが……」

「どうしたんだ?」

「大陸間を移動するためには……その、き、教会が管理している港を使わなければならないのです。

そこを避けて通るには、『スマフ』と呼ばれる化け物が生息するま、魔海を進まなければなりません。

そこを通ったら最後……生きて帰る者はいなかったという……」

「なんだそのB級ホラーの代名詞みたいな文言は

……まぁ、協会の連中と戦うよりはマシだろ」

「そっ、そうですね、」


目的地が定まった俺達は、静まり返った森を馬の蹄で踏み鳴らした。

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