間章気持ち悪い笑顔
あの日から見る夢。
はじめは、明るく活気なローザ王国。
その場の雰囲気を、謎の懐かしさとともに歩いていると場面は暗転し、暗く、絶望の炎が舞い上がり、瓦礫がつもり、世界が黒煙にまみれる。
その瓦礫の下には、アルフレッド、ヴィクトリア、エル、国王。
皆がそれぞれ苦しみの表情を浮かべ、コチラに助けを求めてくる。
次第に、周りから声が聞こえてくる。
〔なぜ、お前が生きている〕
〔勇者様だけじゃ、何もできないくせに〕
〔なぜ、お前なんだ〕
〔お主は勇者などではない、この痴れ者が〕
「ヴィク──」
手を伸ばす。
何もない虚空に飲まれ、水泡に帰す──はずの手は、温かい人肌に触れる。
「あっ……えと、すみません……手、あの、はいっ、きっ……気分が優れないようでしたので、
ゆ、勇者様の……」
「……お前、どっちがどっちか分かりやすいな」
「はむ!?はっ、ははっ……そうでしょうか……」
少し俯き、頬を僅かに強張らせながら笑うマリアをよそ目に、彼女のひざ元から離れる。
俺ってこんなに無防備に寝ていたのか……
「あ、あのー……」
「ん?なんだ?」
「こっ、これから……どうするのですか?彼女を説得したといっても、そっ、それが本心だとは限りませんし……私だって、む、村の皆に悪い気がないわけではございません。
彼女の存在も、ここ数日、偶然気がづいただけですし……
そ、そのっ、また彼女が悪いことしないことも断言できませんし……」
「その件なら大丈夫だ。
契約しておいたからな。
破ったらあいつもどうなるかくらい、分かっているだろう」
「えっ……そっ、それって……」
キョトンとした表情から忙しなく目をしばたかせる。
「何をそんなに驚いているんだ?お前」
「えっ、いやっ…、えっ……?
そっ、それってつまり……私に…、せっ、接吻を……」
その言葉を理解した瞬間、自身の脳内に後悔と自責の念が押し寄せる。
まずい、コンプラとかじゃなく、人間として。
こんな可憐の少女の初キッスを奪ってしまったのではないかという焦りが募り、思わず謝罪と言い訳のセリフを考える。
だが、そのどれもが自分への慰めの言葉にしかならず、口に出すにはあまりに稚拙すぎた。
「えとっ……あのっ……いやっ……い、いいんですけど……あでも、いや、ええと──
大丈夫ですよ……?」
「駄目だ、俺の尊厳の問題だ、これは……」
まっずい、まっずい……この状況は非常にまずい。
少し前から薄れていた感情が、恥という一番くだらないことで覚醒し始めているのがわかった。
「ほんとにっ!!!スミマセンしたっ!!!」
とっさに頭を地面に擦り付け、平服の意を表す。
「あのっ……ほんとっ……誘い受けっていうか、ほんと、合理的判断の上で自分はっ……んぐっ!?」
「こっ……れで……おあいこ──ですよ」
人生で二度目のキスは、一度目とは比べ物にならないほど。
あぁ、なんて、儚い笑顔──
時を止めるなんて勿体ないほどに、脳裏に焼き付いたその顔が。
ふと、昔の想い人に重なり、俺は一人でにカラカラと笑った。
「ははっ、俺って……」
本当に、気持ち悪い。
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