第8話買い出しと別離
「そういえば.、その短剣、どこで手に入れたんだ?少し変わった形だ」
「あ、あぁ、それはな……」
────────
俺は、
ひょんなことから異世界召喚され、正直思ってたようなチート設定の勇者ではなく、ただの死なない一般大学生だ。
まず、最初に会ったのが騎士団団長候補、アルフレッド。
その次に、自分のお世話をするらしい
その他諸々の主要メンバーらしき人物が登場しきったところで、事件が起きた。
敵組織による襲撃だ。
物語の中だるみを防ぐための新展開、この事実がただの漫画の一節で、しかも読者としてみていたら、ほぉ、そうきたか。としか思えなかった。
そうであってほしかった。
その後色々あって立ち直った俺だ。エミルとかいうやつに出会ったり、勇者の意味も説明された。
自分の今生きる目的も見つかった。
閑話休題
俺の話はこれくらいでいいだろう。
今俺は、武器を新調しようと思い、街の
〜新たな出会いをあなたに〜
へ来ている。
「いらっしゃい」
やたらと顔が厳つい店主だな、と思いつつも、部屋を見て回る。
関係ないことだが、この店主に名前をつけることにした。名前はブルジェンコフ。
「なぁ、ブルジェンコフ」
「……なんだ」
……あってんのか?名前……
「この店で一番良い物を……」
「……形状は?」
「んー、どっちかというと暗器系で、持ち運び型の、二本持ち出来るような奴ない?」
さっきまで厳しく俺の目を見ていたブルジェンコフが、急に店裏を見やる。
そしてそれと交互に俺の顔を見つめ、あきらめたような顔つきでため息をついた。
──もしや面倒な客認定なんかされてないよな?
「……こっちだ、ついて来い」
急に重々しくなる空気に違和感を抱きつつも、その言葉に従うことで、いい武器が見つかるならそれでいいやと思いついて行く。
というかこれ某人気漫画みたいな展開だな……
暗く狭い階段を降り、足早に進んでいくブルジェンコフにおいていかれないよう努めていると、一つ小さな扉にたどり着いた。
その扉からは異様に張り詰めた空気が感じられた。
この中に入ったら死ぬ。
そう思わせるような凄みがあった。
心の準備ができていない俺を無視してブルジェンコフは扉を無造作に開ける。
「お待ちしておりました、パトリクス卿……
おや?あなたは──あ、いやいや、追い出さなくて結構です。
私はヴィルヘルム・ショトロイゼンまたの名を、大天使ウリエルと申します」
惹き込まれる。その目に、何もない虚ろな眼に、俺の姿は一切なかった。
少しけだるげな表情に、鮮やかな黒とヴェージュのちぢれ髪。
消炭色、いや、憲法色か、とにかく引き込まれる感覚に陥るほどに、その黒く光を通さない瞳は、まっすぐ俺を見つめていた。
椅子に座っているのに、俺を見下しているような感覚────
「ではでは、折角ですからこちらにお掛けください」
ラファエルのものとは違う絶望感がその男の周りに漂っている。
足が竦む。だが以前の喪失感に比べれば、この威圧感など、震度3の地震と同等だ。
「……あぁ、失礼するぜ」
「で、貴方は何をお探しですか?武器が防具か──
はたまた
まぁ、なんです、私のコレクションでも見ていってください」
「はぁ……」と、得体のしれない、というか完全なる敵の一人であるこの男を前に、俺は震える手の甲を抑えることしかできなくなっていた。
「例えばこのジャマダハル、少し曰く憑きでね、部下のマリオネッタにわざわざタンザ海沖での正妃戦争中に取ってきてもらったんですよ。
そのときは、『私が裏切っても文句言わないでくださいよ』って怒られたもんですよ、ハハッ」
さっきの顔とは対象的な笑顔が印象的な顔に、毒素が抜かれる。
「まぁ、ここに来たのもなにかの縁、どうぞ、好きなの一つ持って言ってください」
敵から塩を送るとはまさにだ。イカれたやつの思考は相変わらず理解ができない。教会の連中全員がこんななのだろうか?
それに、どこか相手を卑下した雰囲気が癪に障る。
「じゃあ、お前等教会を完全に破壊できる武器、なんてあるか?」
「それは……お高くとまっているようで」
目つきが変わる。最初出ていた死を感じさせる威圧感。だが、さっきほどではなく、自分の体はそれに反応しなかった。
「では、この2つの武器があれば十分です。
ただ──
これを使う覚悟はしてください」
彼の手には、短剣の
「なんだ、ただの柄じゃないか、それにこっちは……」
「ただの柄なんかじゃないッッ!!」
ウリエルの瞳孔が開き切る。
手に柄が食い込み、跡ができていた。
「ッ……取り乱してしまいました。
右の柄……呪いを受けしこの柄は、主が望む形に姿を変え、敵を貪り食う──名を幽幻。
そして左の書……狂人であるエリル・フリューゲルが記した魔導書──赤の書。
これなら、神殺しも……成し遂げられるかもしれません──
では、私はこれで、御迎えもありますので……」
そう言ってウリエルは去っていく。
店長は、続いて部屋を出ていった。
足の力が抜ける。なんとか生き延びた。
いや、生かされた。
とにかく、当初の目的は達成したんだ。それだけでも良しとしよう。
それに、教会を完全に破壊するためにはまず、ローゼンタールとの戦争を終わらせなければならないのだ。
それが終わってからでなければ、アイツラも表立って行動もしないだろう。
どちらが勝利しようとも──
──────────
「……つまり、いいように遊ばれた挙げ句、殺しもしないでメソメソ帰ってきたってわけか!?」
「まぁまぁそうカッとなるなよ、今の俺はあいつに勝てる気がしなかった。それだけだ」
軽いため息をつき、アルフレッドは襟にかけていた手をそっと離す。
「けんかするなら、もう一回やってもいいのだぞ?」
夜桜の頭の上から声がした。
ふと顔をあげると、さっきまで地べたで泣きじゃくっていたソフィアが、今度は夜桜の頭に座っていた。
「あの、勇者様?頭の上にずっとそれ乗せてるけど……大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫大丈夫!こいつ子供だからか、重さ感じないんだよね〜」
「む!こどもとは何だこどもとは!
われ魅王ぞ!?」
夜桜は乾いた笑いで応え、そして次の瞬間──
夜桜の視点は、地べたへと転がっていた。
────────
言葉が発せない。脳の電気信号が途絶えたからか、自身の声からは何も出ない。
だが、体の感覚や、想像を絶するほどの痛覚は残っているようだった。
冷静になれ、戦闘の基本だ、アルフレッドからも言われただろ!
口をぽかんと開けていた彼女も、ようやく状況を理解したようで、次の瞬間、自身の刀身を見えぬ敵へと向けた。
日はもう夕暮れ、哀愁漂うこの黄昏時に、誰が攻撃してきたのだろうか。
思考を巡らせる。
さっきの人攫いの仲間だろうか、帰ってこない仲間を心配して……そんな情が彼らにあっただなんて一ミリも思えないが。
「其方、我を誰とこころえるか!魅王!ソフィアで……」
言葉を遮るように目の前のフードを被った男が迫る。
走っていないのに圧迫感を感じる……この感じ、どこかで……
その間に、地面に転がっていた視線は途切れ、また自分の首の上に乗っかっていた。
「あぁ、ソフィア様、やっと見つけましたッ!!
「もう大丈夫ですから……さぁ、ここは危険です。
お家へ帰りましょう……」
「あんた……何者だ?この子の保護者……って感じでもなさそうだよな」
「黙れ!!お前達全員、ソフィア様から離れろッ!!」
刹那──自分の両腕がないことに気がつく。
「う……ああァァァァァ!!!!」
情けない叫び声が上がるのもつかの間、俺の口は横に引き裂かれていた。
それを見たアルフレッドは、男に斬りかかる。
しかし、その魂の叫びも虚しく、体から無理やり盲腸を引きずり出され、血を吐く。
腹と口から。
「邪魔は居なくなりました……さぁ、帰りましょう……」
先程とは打って変わって、男は優しい声で話しかける。
その声にソフィアの頬がわずかに揺れる。
「どけッ」
男が吹き飛ばされた。
衝撃波とは違う。
例えるならば、何かに弾き出されたような吹き飛び方だった。
無言でソフィアは俺たちに手をあてる。
さっきまでアルフレッドの体から出ていた十二指腸が、臓物が、死んでいた目が、まるで先程の惨劇がなかったように元通りになっていた。
俺の体も、裂けた口、そして、切られて何処かへと飛んでいった両腕がもとに戻る。
だが、治癒魔法の類ではないこの現象に、俺は開いた口がふさがらなかった。
それに構わず、ソフィアは今までで聞いたことのない声を上げた。
「何も聞くでないッ!
……早く行くのだ──」
「騎士団には、お前を守る義務があ──」
「黙れ!愚か者ッ!!
──短い間であったが、世話になった。
感謝する」
顔には、今までにない緊迫した、それでいて泣きそうなその顔に、俺たちはそれを最後に、彼女の顔を見ることはなかった。
──────
アルフレッドから聞いた情報によると、あの日以来人攫いの噂はピタリとやんでしまったらしい。
これからも警戒は続けるがな、とも言っていたけれど、どこか悔しそうな顔を、俺は一生忘れないだろう。
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