第7話買い出しと邂逅

「容疑者A路地裏に入りました」


私はアルフレッド。

肩書は騎士団団長候補で、今は勇者……ヨザクラアキの稽古を努めていたり、街に繰り出て、治安維持を兼ねたパトロールをしていたりする者だ。


今は緊急の任務に当たっていて、ヨザクラの世話もできない状態だ。彼もこの世界に召喚されて数日経ったが、この国の状況は日に日に悪化していくばかり……人攫いや窃盗などの取締件数も増えるばかりだ。


「子供を一人引き込みました!確保します」


気づかれないように、そして音を立てずに近づく。


そしてそこで……


「おっ、アルフレッドじゃん!」

「なっ!?勇者様……なぜここに……」

「……たまたまここ買い出しで通っただけだよ」

「しっ……静かに……」


ヨザクラも何かを察したのか、すぐさま姿を隠した。


「それでさー」

「なっ!?なんで続けるんだよ!?」


小声での私の問いに小声で答えた。


「急に会話が終わったら、それこそ怪しまれるだろ?

会話続けながら、覗くぞ」


こいつもしゃッ……思ったよりも頭がキレる!?


「触るなっ!無礼者!!我をなんと心得る!!

我はみお……ぬな!?やめんかー!」

「こいつ、子供なのに活きのいい顔してやがる」

「これならあの方はさぞお喜びになるだろう……」


奇妙な笑い方をするフードをかぶった男2名。

この調子だともう少し泳がせてアジトを突き止めたほうが……


その刹那、ヨザクラは体を路地裏に入り込ませこう言った。


「おいモブ共!お前らよってたかってお嬢ちゃんに何してんだ?」


……っやめろ。


「みっともねぇ……そんなみみっちぃことしてねぇで……

ちゃんと……」


この……


「働けぇ!!」

「バカ勇者!!!!」


本来ならこのバカ勇者の首を刎ねていたであろう刃は一寸先で、本来ならこの人攫い達のアジトまとめて切り裂く筈だった刃が止めた。

クソッ!予想外だ……こんなときに勇者様に……

それにこんなアホだっただなんて……


「お前は逃げろ!私がこの場を収める!!」


足が止まっている。いや、跪いてすらいる。恐怖で足がすくんだのか?

……いや、違う。

刹那でわかった。この男がやろうとしていることが。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!

クラウチングスタートォ!!!」


溜息が出るほどに、単純でバカで思ったよりも頭のキレる奴が取る選択肢はこうだった。


「スライディング!そして、全力疾走!!」

「うぉ、お前、何をする!無礼であるぞ!!」

「あッあいつ!!」

「供物が!あ……あぁ……」


ヨザクラは男が抱えていた女児を強引に引っ張りそのまま放り投げる。

一人の剣の動きが鈍るのが視界に入った。


「隙ッ」


致命傷を避け、足にのみに切り込む。


その間に勇者が、もう一人の人攫いが振りかざしてきた剣を短剣で抑え込み、そのまま締めの体勢を取った。

その後二人を縛り上げ、私達は子供を助けられたという安堵から、一息つくために近くにあった樽に座り込んだ。


「バカ勇者!死んでた!普通!」

「いや~、思いつくことがこれしかなくてですね……」

「アジトまで突き止められた筈だったんだ!!

それなのにお前は……」


体全体が重い……コレで人攫いの元締めを全部潰せるところだったのに……。

それにもう潰せる段階にあると報告済みだ。

おそらく団長経由で大臣や王にも伝わっているだろう。


「おいっ!お前!何してくれてんだ!

粗方終わった人攫い事件……あとは大元を捕まえたら終わりなのに……

その組織に直接仕事をしてる下っ端が残りこの二人だったの!あとは牢獄で舌噛んで自殺しちゃったし……

どうしてくれんのよぉ!」


感情を洗いざらい吐き出すと、ヨザクラは困ったかのような顔で「すまん……」と言ってきた。


「まずこの子の事情聴取と、この二人の拷問……それから」


急に重力が重くなった感覚に陥る。なんだこの重さは……。

疑問を抱いた直後、背中から大きな子供の声がした。


「おっほん……我が名は魅王ソフィアだ!宜しく頼む!」


頭の中で理解した。コイツは、関わってはいけない。

死の恐怖が体全体に広がる。

あぁ、これが────"死"────


─────────


「──フレッド?アルフレッド?」


重たい目を開ける。自ずと体を起こし、これが夢ではないのを確認する。


「どうしたんだ?急に倒れて」

「……あ、いや、すまない……子供は?」

「ここで眠ってるよ」


よく見ると勇者様の膝の上に、一人の子供が眠っていた。


その子供の髪は薄くくすんだ紫色で、頬には子供らしい肉付きと、さっき見た虹色の右目が頭に焼き付いて離れない。


「なぁ、変なことを聞いていいか、勇者様」

「ん?なんだ?早くしねぇと、日が暮れちまうぞ」

「いや、そのっ……そいつに触れても、なんとも思わないのか?」


あ?と、不思議そうに首をかしげるヨザクラに苦心する。


「そいつ、もしかして……」


その言葉を遮るように、ヨザクラの頭の上から声がした。


「ひれ伏せ、我は魅王だぞ」

「はいはいそうですね~ッていつの間にっ!」

「お前……何者だ?」


警戒を解かない私に、ヨザクラは再び横槍を入れる。


「おいおい、路地裏は路地裏でも、一応街中だぞ?

そんな騒ぎ立てんじゃねぇ、一旦この子を親元に返してからだ」

「いやでも……」


その刹那────私の体は"刻まれた"。


「お前、頭が高い」


疑問はあった。違和感もあった。

だけど疑心は確信へ、こいつは確実に勇者様ヨザクラと関わらせちゃいけないやつだ。


「おい、やめろ……」


ヨザクラの怒気の籠もった一声に、目をまん丸くした少女が問う。


「なぜだ?

此奴はお前に対しても我に対しても頭が高い。

だから、頭を上げられなくしただけだ。

問題あるまい?」

「問題ありありだ……コイツは命の恩人なんだよ、俺よりも頭が高くて当然の女だ。

早く戻せ」


一瞬ソフィアは顔を伏せたかと思うと、唇を尖らせ私の体を無言でつなぎ合わせる。

その目には、薄っすらと膜が貼っていた。


「わ……れ、ちゃんと戻るようにきったもん──

よざくらの……ため、だったのに……」


口に出したら止まらなかったのか、泣きながら言い訳を続ける。

その間私の体は繋げられ続け、数分も経たないうちに、元の私へと戻った。


「こ……これで、ゆるしてくれる……?」


「それはお前の問題、俺はお前に怒ってねぇ、叱っただけだ。

謝るもクソもねぇよ」


倒れている私にヨザクラが手を差し伸べる。

正直、ヨザクラが私のために怒ってくれているのが不思議でならなかった。

おそらく、あいつから私への第一人称は"最悪中の最悪"、理由は言うまでもない。

私もそうだった。召喚されたばっかりだったとしても、王に対しての誘拐犯扱いに、腸が煮えくり返るほどに怒ったのは今でも覚えている。

しかし、剣を教えていく中で、彼の内面に触れた。

どこか冷静で、熱くて、それでいてバカで少し頭のキレるところが好きだった。


別に、恋愛的にというわけではない。


「……ありがとう」


私は騎士なのだから。


「どういたしまして」


────────

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