第6話覇王
────────どれくらいだっただろうか、数分にも、数時間にも感じた時間が体に流れて、今までの常識が壊された感覚。
ここは異常な世界だ。
異世界なんて生易しいもんじゃない。
現代日本人は生存すら不可能な世界なのかもしれない。
それを悟った。
「ここは……」
”白い箱庭”その言葉以外には思いつかないほど、真っ白な世界。
どこにもよどみなく広がっている無限の世界に、俺は恐怖に近いものを感じる。
だがしかし、それが杞憂だと分かったのはももの数秒後だった。
「お主、遅くね?」
「誰だよ、お前」
そこには、特徴的な虹色の右目と、黒く灰がかった左目、そしてきらびやかで思わず見とれてしまうようなオレンジ色の髪。
そして、全てが許されるような安堵感を醸し出した少女が一人いた。
「お主、我にこんな口を利くのか……
守りたいものすら守れないほど貧弱なのに、可愛いもんじゃのぉ」
「俺は……探さなきゃいけないやつがいるんだ。
その子は、優しくて、頭がよくて……それでいて」
「裏切られたのに滑稽じゃの〜
ま♪そこも良いのじゃが」
「……ここどこだ、出してくれよ」
俺は無気力、いや、どちらかというと絶望にも近しい表情で歩き回る。
虚ろな目からは正気など、微塵も感じられない。
『も~……人の話はっ!最後までちゃんと聞くのじゃっ!!』
「そんな時間はない」
そんな声もむなしく、俺のカラダは少女の前に謎の力で押し出される。
「お主、加護が発現するのが遅すぎじゃ……危うく死ぬところじゃったぞ」
「加護?あぁ、アルフレッドがなんかいってたな」
「お主は勇者として召喚されし者、加護とは、知性ある
勇者とは、加護を複数持って生まれたもの。
お主は、別世界の住人じゃった。
その中でも、複数加護持ちは一宇宙で同時に一人しかおらなんだ。
この世界の複数加護持ちは今、生死不明」
「だからどうした、俺には関係ないだろ」
「関係ある話だ、最後まで聞く……」
「それでヴィクトリアは戻ってくるのか?」
「それは……」
答えられないのか、少女は押し黙る。
「なら話は終いだ。それに、何者かも名乗ってないやつに、話を聞く義理はねぇ」
その言葉を聞くやなや慌てた声で引き留める。
「あっ、いやっ……待つのじゃ!待つのじゃ!
……おっホン……我が名は”覇王”エミル!この世界を管理する、神じゃ!」
今にも『崇め奉るのじゃ!』と言いたげなドヤ顔に毒素を抜かれる。
「お主には、とある神託をたくしにきた。
教会の主戦力を、殲滅してほしい。
その代わりにと言ってはなんだが、それが成された暁には、お前の願いを何でも一つ叶えてやろう」
俯く。
「……初めてだった」
俺はいつの間にか呟いていた。
それに呼応してエミルは顔を斜めに傾げる。
「人の死を肌で感じたのは。
いままで平和な現代日本に住んでいて、人の死なんて、フィクションか、画面の中の出来事で……そしてそれよりも知らない人間のスキャンダルが連日取り沙汰されて……
忘れてたんだよ、人の感情があんな温かかったなんて」
ただの自分語りだと判断したのか、エミルは顎をつついているジッと答えを待つ。
「受けるよ、その話」
目に光が戻り、顔を見据えじっと見る。
「……本当か?」
「あぁ」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ」
「我の話、聞いてた……?」
「しつけぇ!」
体を空中に浮かばせ、ステップを踏みながら、俺の唇に口付けをする。
「おまっ……急に何してんだッ!」
「契約じゃよ、
お前に神託をたくす。
我が命により協会討伐を命じる。
さぁ、行け勇者ヨザクラよ!
旅の始まりじゃ!
……あ、そうじゃ忘れておった、お前にあと5つの加護が発現するから!
それ使って頑張るのじゃぞ〜」
その直後、俺は意識手放した。
──────────
朦朧とした意識の中、横たわっていた自分の体を縦に起こす。
「……何日経った」
病室のベットで横になっている俺の隣で、自身の剣を磨いているアルフレッドに問いかける。
「あれから3日経ったよ、国は今、世界各国に責められてジリ貧状態。
教会が糾弾声明を出したせいで、もう救援してくれる国もいない。
完全に星界教と対立してしまったからな」
「その……変な話、ヴィクトリアって知ってるか?」
「言っていたな、そんなこと……
あの場にはあの女と血まみれの勇者様しかいなかった」
「……そうか」
言うに堪えない沈黙が二人の間に流れる。
「我が国は今、大変苦しい状況だ。今こそ貴君……勇者様の助けが必要になるだろう。
そこでだ。これからお前の加護を見分ける儀式……洗礼式を行ってもらう」
確か、エミルもそんな事を言っていたような気がする。
口に手を当て考えてみる。
「なぁ、加護っていったいどういうもんなんだ?」
「加護というのは、生命に宿されし、原始の力……
知性ある
エミルとアルフレッドの言っていることが一致する、ということはつまり、
「分かった。いつだ?」
「今だ。勇者様」
驚きのあまり、全身が硬直する。
アルフレッドに支度の準備を命じられ、ドレスコードに袖を通す。
その数分後、大聖堂らしきところへと呼ばれ、王の前で「火を告げよ」と言われ、聖杯と呼ばれる陶器に火を注ぐ。
その火の中から突如、初めは入っていなかった一枚の紙が零れ落ちた。
:
████████
██████████████
██████████
████████████████████
████████
それに、あとのものは黒く塗り潰されているようでよく見えない。
「あと5つ……もしかして、あと5つって──」
「あぁ、すまない……お主にはこのことはまだ話していなかったな。
勇者とは、加護を複数……」
俺は、聞いたことのあるセリフを言われ、それを遮るように話す。
「それなら"あいつ"に聞いたよ」
「あいつ……?」
「あぁ、覇王……とか名乗っていたな」
王の顔は蒼白になり、顔を紅くして……いや、乙女のそれではなく、男のロマンを携えた顔で近付いてくる。
「おっ……お主ッ!もしやあの方……エミル様と通じたのかッ!?」
「?あぁ、なんか白い世界で会った」
「おぉ……おぉ……主は……
見ていてくれていたのか……」
その場にいたあるフレット以外の全員が、声にならない感嘆をあげていた。
このあとアルフレッドから聞いた話なのだが、この国が信仰しているのはエミルと呼ばれる、人から神に昇格したたった一人の人間を信仰対象とする、一神教らしい。
それが、世界各国の信仰対象であるヤルダバオート率いる星界教の怒りを買ったらしい。
だがなぜ奴らが俺を保護しようとしたのかは未だにわからない────
────────
すみません……ヤルダバオート様──
█████
はい、
見えない触手がラファエルの首を絞めにかかる。
███████
はぃッ……全ては──
ヤルダバオート様のため──
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