第3話世界と過去

俺は今、ヴィクトリアとこの世界に存在する概念や種族、そして世界情勢や歴史ついて勉強している。

教えてくれる先生役はヴィクトリアだ。

彼女はやけに自分の名前を呟いていて気がおかしくなったのかとも思ったが、それを指摘した途端、顔を真っ赤にしてしまった。


かわいいな……


まぁそんなことは置いといて、今は彼女の授業に集中しなければ。

彼女は黒板のような長方形のパネルを取り出し、そこにチョークのような白い棒で文字を書いていく。


「ではまず、この世界の地理から」

「ああ、頼む」

「この世界は大まかに分けまして3つの大陸に分けられます。

まず一つ目、ここは私達がいるローザ王国や、ローゼンタール王国の存在するローサルベルク大陸。

二つ目、魔法が盛んな魔法都市の点在する、ロマジサ大陸。

三つ目、機械技術が発達した、クロウエノ大陸です」


「今俺らのいるローザ王国は?どんな国なんだ?」

「ローザ王国。

軍事力や経済力など、あらゆる面において他の追随を許さない大国です

ですが、度重なる軍事費や各国の経済制裁などにより、あとがない……そんな国です」

「ふーん……つまり、死にかけのソ連みたいなもんか。

で、ローゼンタール王国はどこにあるんだ?地図見せてくれよ」


するとヴィクトリアは、俺の目の前に一枚の紙を広げる。

そこには、見たこともないような、精密に描かれた絵があった。


「これ……地球の地図とは似ても似つかないな、やっぱり、ここは地球とは全然違う……」

「ええ、そうでしょうね。

マスターは別の世界から召喚されたはずです。

違うのは当たり前でしょう。

まず、ここが我々がいるローザ王国。

次に、ここがローゼンタール王国。」

「なるほど……これは確かに分かりやすいくらい隣接してるな……」


彼女の説明はとても分かりやすく、要点をしっかり押さえていた。


「さて、次はそれぞれの大陸の特徴について。

まず、ローサルベルク大陸には、主に人間族フューマリー獣人族ワービーストなどの他種族が共存しています。資源が豊富で、技術力も各大陸より標準を超える国が多々あり、また、交易の中心点でもあります。

続いて、ロマジサ大陸。

主にエルフや精霊族、人間族などが住んでいます。

特にエルフには魔法の才を持つものが多く、難易度の高い治癒魔法を扱える者の割合は8割程度であり、彼らは総じて長寿で、自然を愛しています。

彼らの作る工芸品はどれも美しく、芸術品としての価値が高い。

また、彼らには独自の文化があり、私達から見るととても新鮮で面白いものでしょう」

「へぇ……いつか行ってみたいな」

「……ええ、わたしも、いってみたいです」


するとヴィクトリアは、急に表情を曇らせる。


「どうしたんだ?体調でも悪いのか?」

「いえ……なんでもありません。続けましょう」

「んだよ、気になるだろ?」


するとヴィクトリアは、少し困った表情をながら口を開く。


「……では、少しだけですよ?

私は、元々戦争孤児だったそうです。

エルフと獣人族ワービーストの戦争に漁夫の利をした国の尖兵に捕まり、捕虜となりました。

私の引取先は教会でしたが、子供を既に多く抱えていたらしく、私は主に引き取られ、訓練されました。

自動人形オートマタとしてです。

ですから私は、主の言われたところにしか行けない……

まぁ、単純に言えば、自由がないのです」


そういった彼女の目には、この世界の歪んだ闇が見えた。


「……すまん」

「どうして、謝るのですか?」

「なんか聞いちゃいけないことだった気がするからだよ、だから、ごめん」


少しの罪悪感とともに、後味の悪さが聞いた最悪の昔話だった。

けれどもそれは、彼女が歩んできた暗い道のりが、彼女にとってどれだけ辛かったのかを容易に想像させた。


「マスター、続き、宜しいんでしょうか?」

「……あぁ、今日はこのくらいにしよう」

「分かりました、では、私はこれで奥で休みます」

「寝てないのか?」

「少し睡眠不足なだけですよ、安心してください、マスター」


そのまま寝室へ向かう彼女の背中は、なにか重いものを背負っているように見えた。 


「な、なぁ」


曖昧な呼びかけに、ヴィクトリアは踵を返す。


「なんなりと、マスター」

「今度、買い物行かないか?街も見て回りたいし……」

「わ……私は……」

「嫌ならいいよ、けどもし……」


ヴィクトリアは、俺の言葉に、食い気味に返す。


「嫌じゃないです、むしろ……嬉しいです」


彼女の笑顔は花みたいだ。


──────────


朝だ。

心地良い春風が哭く早朝に俺は、国王の寝室に呼び出された。

しかし、やはり規模が違う。

まず目が行くのが扉の大きさだ。

建築のことはあまり良く知らないが、これは分かる。波形渦巻模様だ。様式化した波の模様を形成する一連の渦巻きで、モールなんとかさんが考えたやつだったか、イマイチ覚えていない。


閑話休題


つまり俺は、起きた瞬間アルフレッドに身支度を迫られ(意味深)、その後引きずられてつれてこられたのだ。

そしてなぜか


「おぉ、ここが王の間……」


王の前で椅子に縛り付けられている。


「で、この状況を説明しなさい、アルフレッド」


その至極真っ当な人間ならすぐにたどり着くであろう疑問を王は投げかける。


「は!この男の身支度を手伝おうとしましたが、抵抗されたので一度気絶させ、再度王の御前で暴れないよう縛り上げました!!」

「アホか!男のズボンを平然と下げるな!!」

「それはお前……勇者様の身支度が遅いからであろう!」

「だとしてもおかしいぞ!強制わいせつ罪だ!よって死刑!」

「この騎士団団長候補に死刑だと!?

勇者様こそ騎士名誉保護法に従い、ここで斬首すべきだ!」


この二人をよそ目にハインリッヒ王は咳払いをする。

アルフレッドは国王の前に跪き、さっきまでのアホ前回の雰囲気が嘘のように、一言一句正確に、言葉を紡ぐ。


「はっ!勇者:夜桜亜貴

及び騎士団団長候補:アルフレッド・アルフォンズここへ」


その力強く異様な雰囲気に飲まれ、俺も自ら頭を下げる。

……いや、はようこの縛り解かんかい。


おもてを上げよ

今回貴君らをここへ呼んだのには理由がある。

1ヶ月後、戦争中のローゼンタール王国が東部戦線への奇襲をかけることが間者の情報からわかった。

そこで勇者には戦争への準備として一ヶ月の訓練をしてもらうことになる。

アルフレッド君、頼んだよ」


「は!ありがたくその命、承ります!!」


おいおいマジか……訓練って……とってもめんどくさそうだがサボっても死ぬ運命なのは確実。

メリットとデメリットを考えれば、受けるしかあるまい。


「分かりました国王」

「うむ、よろしい。

下がり給え」


いや、縄は?

────────


「え!?ま、マスター?その格好は……もしや、趣味ですか……!?」


口を手で抑え、驚きと困惑で固まってしまっているヴィクトリアが絞り出した一言に、思わずツッコミを入れてしまう。


「別に縄に縛られるような癖は持ってねぇ!」


今現在、俺はの部屋は、縄を解く様をヴィクトリアに見られた俺と、それを見て顔を真っ赤にし、なぜかSMもののアレでよく見る服装とムチを持ってきた、見るに堪えないカオス空間になっていた。

まず、ヴィクトリアにはその変態趣向的な服装を着替えさせ、誤解を解いた。


「な、なるほど……す、すみません!勘違いしてしまいました……」


顔がずっと紅くなっていて、なんだか愛らしいこれで飯三杯はいけるな……

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