第12話 交換条件
びしっと格好よく、人差し指を私に向けて、婚約破棄を宣言するヴィヴィアン。
可愛い。怒っていても、可愛い。けど……
「いや、無理でしょ」
「なっ、なんですって?!」
顔を真っ赤にして怒るヴィヴィアンも、可愛い。
「国王陛下が正式に皆の前で発表しちゃったんだから、今更あなたが何を言っても
(そう……覆せるのは、国王陛下自身か、もしくはルイが婚約を破棄した時だけ……)
〝婚約破棄〟という言葉が私の胸に重くのしかかる。
その先には、私――クロエ嬢の処刑ルートが待っている。
「……ルイお兄様は、毎日あなたが来るのを待っているのよ。ルイお兄様が可哀想だわっ!」
(それは、私がルイの正体を知っているからよ。
……まぁ、それもそっか。何も知らないで、この世界へ転生されてきちゃったら、誰かにすがりたくなるわよね)
肩を震わせながら怒るヴィヴィアンには悪いが、私のことを待ち続けるルイを想像すると、憐れ……と思うよりも、ざまぁ、と思ってしまう自分がいる。
「そんなにルイは、私に会いたがっているの?」
「………………そうよっ!」
ヴィヴィアンは、ものすごっく悔しそうな顔で叫んだ。大のブラコンであるヴィヴィアンが私のところへ来たのは、大好きな兄のため、私にルイに会いに来い、と言うために違いない。
(ふぅ~ん……正直、前世で殺し合った相手になんて会いたくないけど、ルイが私に会いたがっている姿を見るのも悪くはないかもね)
「いいわ。ルイに会いに行ってあげても」
「本当っ?!」
「その代わり、交換条件があるの」
渋々頷くヴィヴィアンを見て、なんだか私は、自分が本当の〝悪役令嬢〟になったかのような気がした。
♡ ♡ ♡
サスペンス王城にて。
私は、ヴィヴィアンについて広い園庭を歩いていた。
薔薇の垣根で囲われた迷路のような道を、ヴィヴィアンは、迷うことなく歩いて行く。はぐれたら迷子になりそうだ。
「ルイお兄様は、今の時間、訓練場で剣術の訓練をなさっているわ」
「さすがブラコン……」
「〝ブラコン〟とは何ですの?」
「いいえ、こっちの話。さすがヴィヴィアンね。ルイのことなら何でも知っているのねって、感心したのよ」
「当たり前ですわっ!
ルイお兄様のことで私の知らないことなんて、一つも……」
そこまで言いかけて、ふとヴィヴィアンが言葉を詰まらせた。
「どうかした?」
「……いえ、その……最近、ルイお兄様がなんだか……私の知っているルイお兄様じゃないような気がして……」
「えっ」
「きっと気のせいですわっ!
ルイお兄様は、変わらず私に優しくしてくださいますもの!
正式にお世継ぎとして認められたことで、色々とご心労が絶えないのですわ」
ヴィヴィアンは、まるで自分に言い聞かせるように声のトーンを上げて話した。
(……見た目が同じでも、中身が違うと身内には分かるものなのかしら……)
私は、ふとヴィヴィアン以外のルイの家族がどう思っているのか気になった。
でも、すぐに私には関係ないと思い直す。
今、私がやらなくてはいけないこと、それは、自分の身を守ることだ。
「ねぇ、ヴィヴィアン。何か心配ごとがあったら、私に何でも話してね」
「どうして私が、あなたに何でも話さなくてはいけないの?」
「だって、私たち、〝お友だち〟でしょう?
そういう約束だったわよね」
私がルイに会う代わりに、ヴィヴィアンに持ち掛けた交換条件。
それは、私とヴィヴィアンが〝友だち〟になること。
この世界で私は、一人だ。
だから、一人でも多くの味方が欲しい。
私は、とっておきの親愛を込めた声で、ヴィヴィアンに向かって語りかけた。
「お友だちなんだから、あなたに何か心配事があるのなら、私も心配するわ。
そういうものでしょう? 〝お友だち〟って。
だから、いつでも私に、何でも話してちょうだいね」
極めつけに、にこっと微笑みかけると、こちらを見ていたヴィヴィアンが顔を赤くして、そっぽを向く。
「べ、べつに私には心配ごとなんて、ないですわ!
……ま、まぁ、あなたがそこまで言うのなら……お話くらいはしてあげてもよくってよ」
最後に「時々なら」と付け加えるのを忘れない。
そんなヴィヴィアンを見て、私は、よし、と内心で思った。
(ふふふ……ヴィヴィアンが友達を欲しがっていることは、ゲームで経験済みだから知っているのよ。ブラコンな上に高飛車な性格の所為で、友達が出来ないことがヴィヴィアンのコンプレックスなのよねぇ~)
しかし、本来のゲームであれば、ヴィヴィアンの唯一の〝お友だち〟となるのは、聖女の役割だ。
それを私が代わりに務めよう、というわけだ。
(まぁ、ヴィヴィアンを味方につけたところで、彼女はルイの最大の味方。あまり大きな期待は出来ないけれど、今のうちに出来る限りのことをしておくべきよね。
せめて、聖女が現れるまでには、基盤をつくっておきたい……)
そんなことを考えていると、私は、前を歩いていた筈のヴィヴィアンの姿が見えないことに気が付いた。どうやら、はぐれてしまったようだ。
(あちゃ~、どうしよう……ゲームでも、ここの迷路、苦手だったのよねぇ~……。
え~っと……確か、こっちの方角だったかなぁ?)
私は、僅かな記憶と自分の勘を頼り、迷路を歩いた。
しかし、辿り着いたのは、目的であった訓練場ではなく、薬草園だった。
(ここって、確か……)
「こんなところで何をしているんですか?」
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