第2話 新たな目覚め
『あれ、それ新しいゲーム?』
『そう。私の好きなゲーム会社の新作で、今ハマってるんだ~♪』
『それ……あれだろ。イケメンにちやほやされるゲームだろう。
お前……いい歳こいて、そんなゲームやって、恥ずかしくないのか』
『……ほっといてよ。好きでやってるんだから』
『…………のに……お前は、ほんっとバカだな』
私は、あなたのそういうところが大嫌いだった。
♡ ♡ ♡
暖かい光に導かれて、私は、目を開けた。
見覚えのない天蓋付きベッドが目に入る。
(なんか……嫌な夢を見ていたような……)
重い頭を起こして、ベッドから這い出てみる。
シルクのように手触りがいい見覚えのないネグリジェを着ている。
(私、こんな寝間着持ってたかしら)
頭がぼうっとして、意識がはっきりしない。
その時、部屋の外からドアをノックする音が聞こえてきた。
「おはようございます。お嬢様。
お目覚めでしょうか」
甲高い神経質そうな女性の声が聞こえた。
(……え? 〝お嬢様〟って、私のこと?)
私が答えないでいると、声の主は、私が寝ていると思ったのか、「失礼します」と言って扉を開けた。
入って来た人物は、西洋のメイド服に似た洋装に眼鏡を掛けた中年女性だった。
どこかで見たような気がするが、覚えていない。
その女性は、私に向かって丁寧にお辞儀をした。
「今日は、良い天気でございますよ。
さあ、お召し変えをいたしましょう」
「は、はぁ……」
彼女に言われるがまま、私は、鏡台の前へと座らされて、目を見開いた。
鏡の中に映っていたのは、私が知っている〝私〟ではなかったからだ。
(えっ、どういうこと?!
これが〝私〟??)
紫檀色の髪の毛が腰よりも長く伸びている。
整った目鼻立ちに、きりっと細い眉。
白い肌には、ニキビ跡も黒墨汚れもなく、ツルツルで、きめ細かい若さが満ち溢れている。
そして、何より印象的なのは、力強いガーネットの瞳。じっと見つめていると、吸い込まれてしまいそうな程に綺麗だ。
「今日は、こちらのお召し物でいかがでしょうか」
中年女性が大きなクローゼットの中からドレスを一着取り出して見せた。それは、西洋の貴族令嬢が身に着けるような豪奢なドレスだった。
「え……もっと普段着でいいのだけど……」
「こちらが普段お召しになられているドレスでございますが……何か問題でもございますでしょうか」
「えっ、そうなの? まぁ、それなら……」
至極当然のように私のネグリジェを脱がしにかかる中年女性に、私は、思わず叫んだ。
「きゃー! な、何をするんですか?!」
中年女性は、私の叫び声に驚き、目を丸くしている。
「何って……お召し変えです。まさか、その恰好のままで一日お過ごしになるおつもりですか?」
「……ああ。えっと……あの、自分で着られますので……」
中年女性が怪訝そうな顔をする。
「何を仰います。さあさ、タバサの手を煩わせないでくださいませ」
そう言うが早いか、中年女性は、私の背後に回り、慣れた手つきでシュルシュルと紐を解き始めた。その様子が鏡に映るのを見て、私は、納得した。
(ああ、背中の紐を外さないと脱げないのね。それじゃあ、一人で脱ぐのは無理だわ……って、今この人、自分のことを〝タバサ〟って言った?)
私は、タバサの手際の良さを関心して眺めながら、どこかで聞いたことのある名前だなと思った。
「今宵は、ルイ王太子様のご成人をお祝いするための舞踏会がございますでしょう。これが済めば、クロエお嬢様とのご婚約発表も次期、国王陛下から正式にご発表がございます。これからは、王太子妃となるべく、気を引き締めなくてはなりませんね」
その時、ちょうどタバサが背中の紐を全て解き終わり、私のネグリジェがすとんと床に落ちる。
「〝ルイ殿下〟? 〝クロエお嬢様〟?
……ま、まさか…………」
私は、肌着姿のままタバサを振り返ると、思わず叫ぶように声を上げた。
「ここって……乙女ゲームの世界?!」
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