とても良かった


「位置について、よーい」


 係の人が手を挙げる。並んだ六人はクラウチングスタートの構えをとり、言葉を待つ。


 体育祭当日のことだ。


「成瀬ちゃんやる気満々じゃん。多分、彰久ためじゃないのか?」


 ニヤニヤとする隆也の視線は、雫と両脇の女子にも向いていた。


「ぶっちゃけ、今の隆也キモいぞ」

「なんでだ!なんで俺にモテ期は来ない!」


 そこだよ、と言ってやりながら、改めて雫を見る。いつもの、腑抜けたような笑みではない。

 その緊張感に、雫への応援の声は高まる。


「やっぱ、すげえ人気だな。雫って」


 そのうちに、ピストルの音が轟いた。一斉にに土を蹴り上げる音が鳴り、一進一退の攻防を始める。


 初めはトップに喰らい付いた雫も、しだいに一人、二人と抜かれていく。顔には、悔しさと焦りが滲む。

 歓声も、プレッシャーのように聞こえているだろう。


 しかし、その姿に自然と声が出ていた。


「焦るな、雫っ!」


 雫は顔を振り上げた。彰久が大声を張るのがよほど驚きなのか、目を見開いて、そして笑った。


「見ててください、月野木先輩っ!」


 雫は叫びながら地面を踏み締めていく。抜かされた差を縮め、ついに一人抜いた。ピストルが鳴る。


「やりましたよ、先輩!」


 雫はそのまま減速することなく、一直線に明久の元へ駆け寄って、飛びついた。


 シャンプーと汗と雫の香り。にへらとふにゃける雫の顔。


「……まぁ、二位だけどな」


————————————————


 魔法少女の更新も終え、久しぶりにカクヨムのホームを覗いたらこの作品を思い出しました。気分がノったので再開しまーす。

 多分すぐ投稿止まりますけどね。常習犯ですから。

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