やっぱり好きかもしれない


 中間テストも明け、体育祭の時期が近づいてきた。

 それは青春と青春がぶつかり合うクラスメイト同士の、絆の年間行事。それが体育祭。


 陽の人間には。


「月野木先輩、競技の希望何にしました?」

「嫌なことを聞かないでくれ。希望なんて通っても通らなくても最悪だ」


 昼休憩の空き教室。机を合わせて向かい合う。

 そんな中、彰久は昼食を摂る手を止めた。ただでさえ、夏が目の前に迫り鬱々としているというのに、そんな時期に体育祭。陽キャの祭りが始まるのだ。


「井ノ原先輩は嬉しそうでしたよね」

「隆也はあれで運動神経良いしな。モテるチャンスだとか言ってたぞ」

「井ノ原先輩らしいですね」


 箸を口に突っ込み、この話を卵焼きもろとも飲み込んで終わらせた。


「……雫は何に出るんだ?」

「借り物競走と百メートルリレーですね」

「そうか……………」

「どうして黙るんですか」


 机ごしに覗き込まれる雫の顔。


「……大縄と借り物だ」


 雫の顔は覗き込まれたままパーっと明るくなり、ニマニマと嬉しそうに口を動かす。


「もし希望が通ったら、私が月野木先輩を借りてあげます。なので先輩も私を借りてください」

「訳が分からん」

「いいじゃないですかっ!一緒にゴールしましょう!」


 いえーっい!と、雫は彰久の両手を掴んだ。彰久は、しばしばその温もりを堪能した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る