愛と眩しさ100%


「私たちには決定的に足りないものがあります」


 唐突に口を開いたと思えば、そんな言葉を彰久にぶつけた。


 現在は授業後、帰宅途中である。


「……一応聞いてやろう」

「ずばり、月野木先輩の愛です!」

「よし解散。家帰るぞ」


 一気に興味をなくした彰久を、必死の形相で止めようと腕を引っ張る。


「考えてみてください!こんな完璧美少女他にいませんよ?そんな雫ちゃんから100%の愛を受けているというのに……ちょ、帰らないでください月野木先輩!」

「帰ってるんじゃない。逃げてるんだ」

「どっちにしろ悪辣!?」


 雫はその文句を大声で垂れ流す。同じく、帰宅途中の生徒から視線をいただき、このままでは近所迷惑だ。


「で、成瀬は何を望んでるんだ?」

「こう見えて、私たちはもう二年目。一年ちょっとの付き合いですよね」

「中学時代合わせたらな」

「それなのに、私は月野木先輩の口から私の名前を聞いたことがありません……」


 少し悲しげに、顔も声音も俯いて言った。


 そんな雫の告白に、彰久は面食らう。

 いや今更かと。


 でも、このくらいで機嫌が直せるなら。そう思った。


「雫。これでいいか……?」


 彰久は心底呆れた風を見せ、怠そうに口にした。それに対して雫の顔は、最高のプレゼントでも貰ったように口角を上げた。


「はい、月野木先輩!」

「お前は苗字なのかよ」

「し、ず、く、です!」

「……そこなのか」


 誰も入れない桃色空間を、通行人は感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る