不安だから
「ここ教えてくださいよ月野木先輩」
折りたたみ式の机を広げて座布団に座り、教科書を指でトントンする雫は甘い声で言う。
唸りを上げ雷を落としていた黒雲から一転し、太陽を取り戻した青空は燦々と暑さを振りまいていた。
そんな中、来週には中間テストを控えているため、わざわざ用意を取りに戻った雫と彰久宅で勉強していた。
「悪いな。俺も俺で点数は良くない」
「なんでですかぁ。秋奈さんはあの偏差値の高い大学の法学部ですよ?弟君も受験しなきゃいけない中学ですし」
「悪かったなぁ出来が悪くて」
「そうは言ってません」
拗ねたように、机に置かれた麦茶を一杯。雫はその様子に、かわい〜、と呟き指先で頬をツンツンする。
「聞きましたよ?人生で一回も赤点は取ったことはないって。逆に凄くないですか?」
「どこ情報だ。合ってるけど」
手元の問題集を片付けていると、雫は彰久の解き終わった問題を手に持ち訝しげに見つめる。
「基礎問題はできてないのに最後の難問だけできてる……?」
「勘だけはいいからな。将棋やらオセロやら、頭脳戦なら負けない自信がある」
と言いつつ、彰久は物憂いげな顔をした。
雫は問題を机に戻すとともに、少しだけ、座布団を近づけた。
その顔には、どこか憂慮が混じっていた。
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