可愛いものは可愛い


「ベットにでも座って待っててくれ」


 かくかくしかじかあり、雫は彰久の部屋にお邪魔していた。


 話を聞くと、雫は雷が大のトラウマだそうだ。ちょうどこの連休で両親が結婚記念日の旅行に行ったらしく、家に一人。


 「こんなことで来ちゃって」と、雫はしょんぼりした様子で俯く。


「今日のところは泊めるけどな、そう簡単に男の家に凸ってくるなよ?ただでさえ成瀬は天使とか言われてるんだからな」

「……先輩の家だから安心なんじゃないですか」


 ボソッと呟かれた言葉を聞かないフリで乗り切り、布団を用意しようと彰久は部屋を出る。


 それをバッチリ確認し、雫はベッドの布団に顔を埋めた。ぐりぐりと顔を押し付けた。スゥーッと一息深呼吸を加えて。


「月野木先輩の香りだぁ」


 幼児退行したような声音で漏らす。雫でなければ通報ものだ。


 彰久の服に包まれ彰久の布団に埋もれる。イッツ彰久パラダイス。


 そんなことをしていたら、安心からうとうとし始める雫。布団に顔を乗せながら、微睡む姿はまさに天使。


「成瀬ー、布団持ってきたけど使う……か」


 布団を抱えて戻ってから彰久は、ぐっすりと寝息を立てる雫を見つける。「しゃーないか」と小声で言って端に畳む。


「……せん、ぱ……ぁい……」

「……はいはい」


 頬を綻ばせる彰久は、眠る雫の頭を軽く撫でてそうもらした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る