その行動が皆んなを傷つけた


「月野木先輩、お昼まだですよね?そうですよね。一緒に食べましょう!」


 天使のような笑顔を振り撒きやってきたのは本日の雫ちゃん。彰久を見つけるや否や、声高々に呼ぶ。


「授業終わってすぐだぞ?成瀬、お前どうやって……」

「細かいことはいいんです」

「まぁいいけどさ、俺何も買ってねんだわ」


 両手を目の前でぶらんとさせ、雫に退くよう示す。


「そう言うと思いまして、先輩のために弁当作ってきました!」


 両手に一個ずつ、弁当箱を提げる。右手のものを突き出すと、無理矢理彰久の手に掴ませた。


「おい彰久、女子の手作りとか羨ましいぞ。くれ」

「あ、井ノ原先輩にはこれを」


 「え、あんの?」と嬉々とした様子で、餌を待つペットのようにしていると机にちょこんと、乗せられたカップ。


「冷凍ひじきです」


 天国から地獄へ堕ちた隆也を尻目に、ハートマークを頭から出して近づく雫を宥める。


「早く食べましょう?」

「まぁ、そうだな。隆也は……ほっとくか」


 いつの間にか消えていたひじきを気にすることもなく、弁当の蓋を二人同時に開ける。

 ハートを描くふりかけ、お揃いの配置。頬をひくつかせる。

 と、何故か雫は彰久の肉巻きを箸で掴むと、徐ろにこちらに差し出す。


「お、おい……」

「月野木先輩?あーん」


 教室内の温度が急激に低下する。食うも食わぬも地獄であり、早く終わらせようと箸に触れぬよう半ばで噛み切り咀嚼する。


「……ん、美味っ」

「じゃあ私も」


 ふわりと微笑み、ふと嫌な予感が。


「ふふっ、我ながら美味しいです」


 齧りかけの肉を持つ箸は、もう雫の口の中だった。

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