それは反則


「今日なんだか機嫌良くない?」

「確かに、スキップしてる……可愛いな」


 話題に上がっているのは、言わずもがな雫。二年の廊下を柔らかな表情で進んでいた。「つっきのっきせっんぱい」と小刻みにリズムを刻んで呟き、幸せを滲み出していた。


「なぁ、ぶっちゃけどうなんだよ?」

「何が?」


 彰久の声が聞こえてきた。普段なら無視して特攻するが、今日は機嫌がいいのでいつもの彰久の様子を観察することにした。「にっしっし」といたずら笑顔を湛えてドアに背をつけ耳をそばだてる。


「成瀬ちゃんだよ、成瀬ちゃん。付き合ってんのか?まさか、まだ友達以上恋人未満って感じか?なら付き合っちまえよ!そして成瀬ちゃんの友達に俺を売り込んでくれ!」

「それが目的かよ!」

「で、実際どうなんだ?」


 彰久がどう答えるのか、少しワクワクそわそわしながら回答を待っていた。


「ただの後輩だ。それ以上でも以下でもない。というか、トイレ行きたいから道塞ぐな」

「ちっ。じゃあ今度合コン着いてこいよ!」


 モヤモヤを抱え、雫は俯く。彰久が廊下に出ても変わらずに。でも、このままじゃ嫌だ。よく分かんないけど嫌だ。


 だから走る。


「……私、友達じゃ……ないんですか?」


 ポケットに突っ込まれかけた彰久の制服の袖を指先で摘むと、潤んだ瞳で見上げる。


 ギョッとする彰久は、「聞いてたのか」と呟くと、逡巡しながらも空いてる腕を頭に伸ばす。


「……お前は一番大切な後輩だ」


 ちょっと不満そうに、雫の頬は赤く染まり小さく膨らんだ。

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