特典の誘惑
「先輩っとデート、先輩っとデート!」
「スイーツ食べに行くだけだ」
あの、悲しい事件の後。秋奈の計らいにより、彰久と雫のデートが決行された。雫がたまたま食べ放題のクーポンを持ってきていたからでもあるが。
君久(弟)という犠牲を払うことで、彰久は同時に荷物持ちからも解放されたのだ。
「ここ、か。外観からして俺が入れるような場所じゃないな」
「そんなことないですよ?月野木先輩もおしゃれです」
「それは将来の伴侶にでも言ってやれ。泣いて喜ぶぞ」
むすっとする雫にも気が付かず、彰久は店のドアを開ける。同時にカランカランとドア上部の鐘が鳴り、店員の快活な挨拶が店内に響く。
「食べ放題二名で、このクーポン使えますか?」
「えー……っと、はい。期間内ですね。六十分コース二名、かしこまりました」
店員が会計を済ませると、にこやかな笑みでこう続けた。
「本日カップル特典でドリンクの提供をしているのですが、お客様は」
「カップルです!」
「ちょ、成」
「かしこまりました。では、お席へご案内します」
雫の唐突な一言にツッコむ暇もなく店員が歩き出す。彰久は店員が背を向けたことを確認すると、雫を睨む。
「少しだけ、こうさせてください」
そう言うと彰久の懐に潜り込んだ。そして、腕をギュッと抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます