恋はカレー味


「月野木先輩、隣いいですか?」


 両手にトレイを持つ雫は、四人席に座る彰久に声をかけた。


「ん、あー成瀬。……俺はいいけど、お前らは?」

「別に気にしないよ」

「可愛い女子なら大歓迎だ」


 カツカレーにがっつく隆也は、サムズアップを決めながらウインクを一つ。それを、うどんを啜りながら良政が苦笑いで応える。


「そんなんだからモテないんですよ、井ノ原先輩。あ、隣失礼します」


 隆也に強烈なボディーブロー!カレーのルーがまるで血のように口から垂れる。

 雫の正面に良政、彰久の正面に隆也の構図が出来上がる。


「私のクラスの女子も、顔だけならタイプってよく話に聞きますし、一生黙ってたらいいんじゃないですか?」

「言うね、成瀬ちゃん。辛辣だ」

「だってよ、隆也」

「やめろ……俺の心のライフはもうゼロだ。死体蹴り楽しいかよ」


「「もちろん」」


 カレーを掬う気力すら無くなった様子の隆也に、雫はなんだか可哀想になってきた。


「…………なら、彰久はどうなんだよ」

「確かに気になるね。でも、猛禽類みたいな目のせいで近づけない人多いんじゃない?」

「しれっと俺まで巻き込むのやめろ」


 隆也の視線が雫に向けられた。その時雫は、無意識に彰久の腕を掴んでいた。そうして、顔をうずめるようにして消え入りそうな声でもらす。


「月野木先輩のいいところは、私だけ知ってればいいんです……」


 良政は微笑ましそうにつゆを飲み、隆也は、人を射抜き殺せそうな鋭い眼光で、垂れたカレーを手の甲で拭っていた。

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