靴箱って偉大


「明日の連絡は〜、まぁなし。じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」


 帰りのホームルームが終わり、先生が教室から出ていく。皆思い思いに席を立ち上がり、彰久も例に漏れず鞄を背負う。

 手提げタイプのものではなく、リュックタイプだ。


「じゃあなあっきー」

「彰久だ彰久」

「また明日ね彰久」

「おう」


 帰り際、友人のはら隆也たかや雪望ゆきもち良政りょうせいと挨拶を交わし、土間へ降りた。


「いたいたっ!月野木先ぱ〜い!」

「おぅ……成瀬か」


 気だるげに視線を移した先には、小走りで駆け寄る美少女が。薄い茶髪を振り回し、「お昼ぶりですっ」と、彰久の元までやってきた。


「一緒に帰りましょう、先輩。どうせ一人ですよね?」

「人をぼっちのように言うんじゃない。事実だが傷つくだろ」

「そういうつもりはなかったんですけど」


 靴を履き替えると、雫は「待っててください!」と一年の靴箱へ早足に向かっていった。


 いつものことながら、騒がしい奴だと息を吐く。


「成瀬こそ、クラスの奴らと帰らなくていいのか?たまには…」

「先輩」


 靴箱越しに声がかけられた。行き場を失った言葉を流しつつ、「なんだ?」と聞き返す。


「月野木先輩だからです。先輩だから、もっと一緒にいたいんです。……ダメ、ですか?」


 靴箱越しでよかったと心底感じた。

 彰久は、顔を手で覆ってそっぽを向く。


「……帰るか」

「ですね!」

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