私は弘子。ミミズクの女

@jigencat

弘子とミミズク

あたしの名前はR.B.弘子。しがないミミズクの妻。巷では「文房具王になり損ねた女」なんて言われてるけど、気にしてはいない。結婚してから随分経つけど幸せなことばかりじゃなった。子供が産まれた時、夫のブッコローは、小さくても優しい羽毛で私達を包んでくれた。今思えばあの時は人生で1番幸せな時だったのかもしれない。子供が夜中に泣き始めた時も有隣堂で買った絵本を読み聞かせたり、光るガラスペンで子供を楽しませて眠りにつかせてくれた。あの頃は良かったなと思い馳せる。しかし...あの人...ブッコローは変わってしまった。


部屋に子供の泣く声が響く。

「ブッコローパーンチ!」

短い羽が私目掛けて飛んできた。

「キャ!」

私は地面へと倒れる。

「こんな有隣堂で買ったメシが食えるかってんだ!」

ブッコローは卓上に置いてある夕飯を指さす。

そこには有隣堂で社員割引で買ってきた夕飯が並んでいた。

「でも、有隣堂の食べ物は美味しいものが沢山あるんですよ。しかも、簡単に作れるものも多くて...」

「何言ってんるんだ!有隣堂の食いもんなんてハズレばっかりなんだよ!」

「そ、そんなこと...そんなことはありません。」私は目をスッと逸らす。

「誤魔化すんじゃねー!ブッコローパーンチ!」

「お父さんやめてー!」

娘のブッ子は殴られようとする私を守るように間に入る。

「もうやめてよ!こんな食事になったのも、お父さんが有馬記念で大負けしたからでしょ!お母さんのせいにしないでよ!」

「親父に対して舐めた口を聞くな!YouTubeの登録者20万人を超えたミミズクの力を見せてやる。」

娘のブッ子がブッコローパンチの餌食になろうとしている。そこに1本のガラスペンが床に転がっている。私が殴られた時の衝撃で落ちたのだろう。私はガラスペンを手に取り、走り出す。一瞬、いきなり自分に目掛けて走り出した私を見て、ブッコローはたじろいだ。そのまま、持てる力を振り絞ってガラスペンをブッコローのお腹に突き刺した。

手に伝わる布と綿の感触。私はその感触で我に返ったのか、1歩下がった。

「ひ、弘子お前。」

そのままブッコローは蹲った。

「こ、こんなことをしてどうなるか分かっているのか…」

その言葉に私は返すことは出来なかった。

「嫌だ!死にたくない!俺にはまだ可愛い女の子と合コンをするという夢があるんだ...そのためには、ま...まだ...死ぬ...死ぬ訳には...」

そのままブッコローは動かなくなった。

冷静になった私は口を開いた。

「私はなんてことを…」

娘は私に駆け寄って優しい口調で言った。

「お母さんは人を殺した訳でも、ましてやミミズクを殺した訳でもない。ぬいぐるみから私を守ろうとしたんだよ。」

その一言で私の心は救われたような気がした。

「ありがとう、ブッ子。」

そしてさようなら。R.B.ブッコロー

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