持ち物検査



 これから6時間目の授業が始まるという時のことだった。

チャイムが鳴り、先生は教室に入ってきたと同時にこう言った。



「はい、今日のこの時間は持ち物検査するぞー」



瞬間、えぇ!?と生徒から驚きの声が上がる。



「なんで!」


「抜き打ちなんてひどい!」



生徒がブツブツと文句を垂れる。



「何も悪いもの持ってなかったら、焦る必要ないだろ?」



 その言葉に生徒が黙り込む。

まあ確かに、先生の言うことは正しい。


 僕は別に悪いものは持ってきていないし大丈夫だな。

チラッと隣の席の霧島さんを見る。


 霧島さんはダラダラと大量の冷や汗を流していた。

そりゃそうだ、霧島さんのカバンの中なんて、持ってきてはいけない物しか入ってない。



「霧島さん、大丈夫?」


「これは・・・非常にまずいですね」



初めて見る霧島さんの焦りっぷりだ。



「よーし、じゃあ廊下側から始めるぞ。全員カバンを机の上に出せー」



先生が廊下側の先頭の生徒のカバンの中身を確認していく。



「まあ、回ってくるまでは時間があるし、その間になんとか・・・」



 僕がそう言って霧島さんの方を見ると、

霧島さんがカバンの中から大きなフライパンを取り出した。



「いやいや!なんでそんな物持ってきてるの!?」


「授業中に何か作ろうと思って・・・」


「無理でしょ!」



霧島さんはフライパンを手に、どうしようかとあたふたしている。



「と、友崎くん!何か案を!」



 先生の検査はどんどんと進んでいる。

モタモタしている暇はない。



「とりあえず机の中に!」


「ダメです!入りません!」


 

ガンガン!と机とフライパンがぶつかる音が聞こえる。



「友崎くん!窓を開けてください!」



 霧島さんから突然の命令。

僕は指示に従い、急いで窓を開けた。



「おりゃ!」



なんと霧島さんは窓から外にフライパンを投げたのだ。



「何やってんの!?」


「後で拾いに行けばいいだけです」



 そう言う霧島さんの顔は何故かスッキリしていた。

そして霧島さんがカバンの中をごそごそし始める。

なんとカバンの中から取り出したのは大きなカエルだった。



「なんでカエル!?」



ふてぶてしい顔の大きなカエルは、霧島さんの手のひらの上で大人しく鎮座している。



「私に懐いてきたので・・・」


「カエルって懐くの?」


「そうですね、カエルは両生類なので懐きはしませんが、私とこの子は心が通じ合っています。思い出すと出会ったのは学校の帰り道・・・」


「わかったわかった!今はそんなこと話してる時間はないから!」



霧島さんとカエルの出会った話を急いで止める。



「ほら!早くそのカエルをどうにかしないと!」


「くっ・・・カエルちゃん!」



 霧島さんがカエルを持って窓に近づく。

そして手を外に出す。

これは!



「自然におかえり!」



霧島さんがそう言うとカエルはぴょん!と外に飛び出した。



「バイバイ、カエルちゃん・・・!」



 霧島さんは高校球児のように手で涙をぬぐいながら席に着く。

持ち物検査をしている先生は、すぐ近くまで迫っている。



「霧島さん!もう先生が!」


「どうしましょう!」



 霧島さんがカバンの中をゴソゴソしている。

そのカバンの中身を覗くと中には電動ドリル、ゲーム機、枕など、訳のわからないものばかり入っていた。



「あーもう面倒臭い!」



そう叫んだ霧島さんはカバンごと窓から外に投げた。



「えぇ!?」



ついに狂ったか霧島さん!



「何してんの!?」


「考えるのをやめました」



そして遂に持ち物検査は霧島さんの番に。



「よし、次は霧島だな」



 先生が目の前に立っている。

しかし霧島さんの机の上には何もない。



「あれ霧島、カバンは?」


「ありません。私、何も持たないで学校来てるので」


「え!?」



先生が驚いている。



「そ、そうか。カバンが無いなら持ち物検査できないしな。よし、霧島問題なし!」



 先生がOKを出した。

霧島さんはなんとか切り抜けたのだ。


 そして全員の持ち物検査が終わり、6時間目が終了する。

瞬間、霧島さんは急いでカバンを取りに行ったのであった。

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