似顔絵


 今は美術室で美術の授業中。

美術室は教室の端に画材や誰かの制作した彫刻が飾られている。

そしてほのかに絵の具の匂いがする。


 そんな非日常に包まれつつ授業を受ける。

今はペアで似顔絵を書き合っている。


 ペアは嬉しいことに霧島さんだ。

僕と霧島さんは向かい合い、目の前にある大きく白いキャンバスに互いの似顔絵を書き合っている。


 にしても霧島さんはやはり美しい。

艶があって一直線に長く伸びる黒髪。

一つの枝毛も感じさせず、教室の光に髪が反射して綺麗だ。


 そして可愛い、綺麗の両面ある顔立ち。

その姿は正にアニメやドラマの登場人物のようだ。

こう思うと、僕の画力で霧島さんの美しさを表現するのは難しいだろうな。


 ジッと霧島さんの顔を見る。

このチャンスにしっかり霧島さんを見ておこう。


 最高の授業である。

これは霧島さんを合法的に見つめられる絶好の機会。

問題があると言えば、霧島さんがたまに白目を剥くことぐらいだ。



「霧島さん、白目やめてほしいな」



 霧島さんがコクンと頷く。

僕の注意でやっと白目を辞めてくれたと思ったら、今度は高レベルの変顔をかましてくる。



「いや、変顔もダメだから」



 すると不貞腐れたように霧島さんがプクっとほっぺを膨らませる。

怒った顔も美しい。


 霧島さんは僕の似顔絵を真剣に書いてくれているようで、たまに難しい顔をしながら手を進めている。

互いの似顔絵を描き始めて10分程。



「よし・・・できました」


「おお、ちょっと見てもいい?」



 席を立ち上がって霧島さんの絵を覗き込む。

すると霧島さんのキャンバスには、洋画チックに描かれた超絶イケメンがいた。



「え、これ誰?」


「・・・友崎くん」


「いや、僕?」



所々僕を感じさせるパーツがあるが、別人と言ってもいいほど美化されている。



「僕ってこんなにカッコよかったっけ?」



 僕が絶世のイケメンに変化している。

自分の顔を思い出すが、こんな人は知らない。



「え、霧島さんすごい!」



霧島さんの超大作に気づいた生徒が、キャンバスの周りにゾロゾロと集まって来た。



「上手すぎる!」


「友崎の平凡な顔をここまで修正できるなんてっ!」


「本当だよ!何一つ特徴の無い友崎の顔を!」



 え、みんなそんなこと思ってたの?

普通に傷つくんですけど。

みんなが霧島さんの絵に関心しながら自分の席に戻っていく。



「ありがとう、霧島さん。こんなにカッコよくしてくれて嬉しいよ」



そう言って自分の席に戻ろうとした時、



「・・・私にはこう見えてます」



 霧島さんのそんな呟きが聞こえた気がした。

いや、気のせいだろう。


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