音読


「じゃあ、句点で区切って読んでいってもらいます」



 現国の先生が言い、教室の廊下側の一番端から音読が始まる。

みんな自分の番が来ると教科書を持って立ち上がり、担当の部分を音読する。

現国ではよく見る授業の光景だ。


 どんどんと進んでいき、霧島さんの番が回ってくる。

霧島さんはスッと立ち上がり、小さく息を吸って読み始める。



「羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が〜」



 霧島さんの音読をクラスの全員が目を瞑り、浸るように聞き入っている。

確かに霧島さんは澄んだ声で、聞いていてとても心地いい。


 だが、みんな気づいていない。

霧島さんが白目を剥いて音読をしていることを。

誰にもバレていないが、隣の席の僕からははっきりと見えている。


 そのまま誰にも気づかれずに霧島さんは音読を終えた。

着席すると、次の生徒が読み始める。


 僕の視線に気づき、霧島さんと目が合う。

え、私何か変なことしてましたか?というようなおとぼけ顔だ。


 そんなことをしていると、僕の番が回ってきた。

教科書を持って立ち上がり、自分の所を読む。


 僕は白目を向いたりせず、真面目に音読する。

それを霧島さんが横でつまらなさそうにジトっと睨み、口を尖らせて見ている。

いや、これが普通だから。


 読み終わって席に座って霧島さんを見ると、俺に向かって大きなため息をついた。

つまらない人間、ということだろうか。


 音読はまだまだ続いていき、2周目に入る。

そして2回目の霧島さんの番に。


 霧島さんが先ほどと同じように教科書を持って立ち上がる。

今度は何をするのだろうか。

僕は少しだけワクワクしていた。


 すると今度は音読をしながら、変顔を始めた。

口を大きく曲がらせ、眉毛を片方上げて寄り目をしている。

恐ろしくインパクトのある変顔だ。


 こんな変顔、霧島さんに品行方正のイメージを持っているクラスの皆が見たら失神するぞ。

っていうかよくそんな顔で音読できるな。

霧島さんはスラスラと文を読み上げている。


 そして霧島さんは着席し、またおとぼけ顔をする。

デジャヴだ。


 そして2回目の僕の番に。

教科書を持って立ち上がる。


 霧島さんが下から上目遣いで僕を見ている。

その目からは大きな期待を感じる。


 友崎くん、わかってますね。

霧島さんのそんな心の声が聞こえる。


 わかった、やってやるよ!

霧島さんに失望されたくないので、僕は音読をしながら今できる最大の変顔をした。


 瞬間、変顔の影響で変な声が出てしまう。

すると生徒の数人がこちらを振り向いた。


 僕はすぐに変顔をやめて通常顔に戻った。

あぶないあぶない、ギリギリだった。


 音読を終えて座ると、 ニッコリ笑顔の霧島さんが待ち構えていた。

よくやった、と師匠のような面持ちでエアー拍手をしながらこちらを見ていた。


 いや、2人揃ってなんで音読の時間にこんなスリリングなことしてるんだよ。

僕は心の中でツッコミをした。

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