お弁当を忘れる
今は昼休み。
教室は昼食を食べている生徒の声で騒がしい。
みんな机をくっつけ、友達同士で固まって食事を楽しんでいる。
お弁当、コンビニや購買で買ったパンなど様々だ。
僕は自分の席で親友の山本とお弁当を食べている。
「なあ、この席いいよなー。広いし」
山本が呟く。
「まあそうだな、開放感あるし」
「だなー。隣に霧島さんもいるしな」
確かに、隣に霧島さんがいるのが一番いい。
そんな隣の席の霧島さんをチラッと見ると、何やらカバンの中をゴソゴソしていた。
「ん?なんか霧島さん、探してるのか?」
山本も異変に気づいて霧島さんを見ている。
「霧島さん、どうしたの?」
箸を止めて話しかける。
「・・・お弁当忘れました」
霧島さんは消えそうな声で呟いた。
「え、そっか。じゃあ購買で・・・」
「もう購買は売り切れてるだろ」
山本が言う。
「うーん、確かに」
山本の言うとおり、この時間だと購買のパンは売り切れてるだろうな。
購買もダメだとすると、万事休すだ。
霧島さんはお昼抜きということになる。
「誰かお弁当のおかず分けてくれる人いないかな・・・」
霧島さんが俯きながら呟く。
瞬間、バッ!とクラスのみんなが一斉に振り返って霧島さんを見た。
「そ、そっか。じゃあ僕の少し分けて・・・」
「霧島さん!」
僕が言い終わる前に大勢の生徒が割って入ってくる。
「私の分けてあげるよ!」「俺のも!好きなの選んで!」「いっぱい取ってね!」
クラスのみんなが続々と自分の昼食を持ってくる。
「いや、こんなにいっぱい・・・」
「いいからいいから!」
遠慮がちな霧島さんとは裏腹に、誰かが持ってきた紙皿が霧島さんの机の上に置かれ、大量のおかずが乗せられていく。
みるみるうちに紙皿はパンパンになり、山盛りに膨れ上がった。
卵焼きやウィンナーなど様々なおかずが乗せられたそれは、もう見たこともない程の豪華お弁当であった。
「みんなありがとうっ!」
クラスのみんなの優しさに触れ、霧島さんは感激している。
そんな霧島さんを見て、クラスのみんなはホクホクと嬉しそうな顔をして自分の席に戻っていった。
霧島さんは知らないうちに用意してあった割り箸を手に持っている。
「いただきます」
霧島さんがみんなの優しさを噛み締めるように小さく呟く。
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は慌てて止めに入った。
「霧島さん、僕のもあげるよ」
そうして山盛りの紙皿の一番上に僕のお弁当に入っていた卵焼きをポンと置く。
「・・・ありがとう」
霧島さんはなぜか一際嬉しそうに笑った。
そして僕の卵焼きから食べ始めた。
もぐもぐと目を瞑って嬉しそうに食べる霧島さんはとても可愛かった。
「なあ、俺にもくれよ」
山本が言う。
「やだよ」
軽くあしらい、ニコニコしている霧島さんを横目に僕たちも食事を再開した。
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