強引なデートのお誘い


 キーンコーンカーンコーン。

6時間目の授業終了のチャイムが教室に響く。



「よっしゃー!帰るぞー!」



 クラスの陽気な男子生徒が立ち上がって叫ぶ。

それを皮切りに教室が騒ぎ始め、みんな一斉に帰りの用意を始める。



「んっ・・・」



 隣の席の霧島さんは腕を伸ばして控えめに伸びをして体をほぐしている。

それを横目に僕は机の中身をカバンに詰め込む。


 今日は帰ってゲームの続きでもするか。

そういえば、霧島さんは放課後って何をするんだろう。

真っ直ぐ家に帰るのだろうか。

そんなことを考えた時だった。



「霧島さん!」



 明るい挨拶と共に誰かが教室に飛び込んできた。

そして霧島さんの席の前に立つ。



「ごめんね急に!今から帰りだよね!」


「え・・・あ・・・はい」



 誰だこの男子生徒。

霧島さんの知り合いか?



「僕、サッカー部の三崎って言うんだけど知ってる?」


「えっと・・・」


「ほら!サッカー部の10番でエースやってる!」



 霧島さんの反応的に、この男子生徒とは初対面のようだ。

っていうかサッカー部のエースで三崎って聞いたことあるな。

カッコよくて高身長でサッカーも上手くて人気って女子が話してたのを聞いたことがある。



「今日部活休みでさ、これから部員のみんなでカラオケでも行こうと思ってるんだけど・・・」



 見ると教室のドア付近でその部員らしき集団が影からこちらを見守っている。

みんないかにもサッカー部って見た目だ。



「よかったら一緒にどうかな?実は前から霧島さんのこと気になってて!」



 なるほど、遊びのお誘いか。

初対面の女子、それも学校1の美少女である霧島さんを遊びに誘えるなんて、よっぽど自分に自信があるんだな。

いいなー、僕もそれぐらいの自信が欲しい。



「あー、えっと・・・」



霧島さんは答えに困っている。



「あ、女の子1人が嫌なら俺の女友達も呼ぶから!」



 三崎くんが霧島さんに近寄って言う。

どれだけ本気なのかがよく伺える。



「私、カラオケとか苦手で・・・」


「大丈夫!俺がちゃんとフォローして盛り上げるから!」



 雰囲気的に霧島さんは嫌そうだ。

だが三崎くんは諦めない。


 これ以上会話を聞いても気まずいな、プライベートなことだし。

2人に気を遣った僕は、カバンを持って立ちあがろうとしたところで気づいた。

なんと霧島さんが三崎くんに見えないよう、後ろ手で中指を立てているのだ。


 えぇ!?霧島さん中指立ててる!?

三崎くんはそんなことは知らずにニコニコで霧島さんを落そうとしている。


 霧島さんの中指は天高く上を向いている。

まさか三崎くんも品行方正お嬢様な霧島さんが後ろで中指を立ててるとは思わないだろうな。

僕は霧島さんがどう切り抜けるのか気になり、帰りの準備をするふりをして様子を伺うことにした。



「そうだ、カラオケが苦手なら俺の家で遊ぼうよ!家でお菓子でも食べながらさ、みんなでワイワイしようよ!」



そんな三崎くんの提案に対し、霧島さんは先ほどよりも強く中指を立てている。



「最近ゲーム機も買ったんだ!今話題のやつ!」



 え、今話題のやつって入手困難って言われてるあれか!?

霧島さんの代わりに僕が行こうかな。



「家はちょっと・・・」


「大丈夫、大丈夫だよ!他の女友達もいるから!」


「でも・・・」



 三崎くんは猛攻を続ける。

その時だった。



「え、あの三崎くんが霧島さんを遊びに誘ってる!」


「本当だ!」


「すげー!」



 気づくと教室の内や廊下にはギャラリーが集まっていた。

みんなこちらをまじまじと見ている。


 そらそうだ、高嶺の花の霧島さんとサッカー部エースの三崎くんだもんな。

学校中の大ニュースになるぞ。



「ねぇ、ちょっとだけでいいから!」



 霧島さんからすればなんとも断りづらい雰囲気だ。

霧島さんの守りが崩れ始め、このまま三崎くんが押し切ると思われたその時だった。



「うぅ・・・うぅ・・・」



 霧島さんからそんな声が聞こえてきた。

まさか、泣いている!?

もしかして三崎くんの強引な誘いが怖かったのか!?

ギャラリーたちも異変に気づき始める。



「あれ、霧島さん泣いてる!?」


「ま、まさか三崎くんが泣かせたのかな?」


「え、最低・・・」



 先程まで三崎くんを応援していたギャラリーが、一気に三崎くんを白い目で見始める。

霧島さんは顔を手で隠し、そこからは小さい泣き声が漏れている。



「ご、ごめん!そんなつもりじゃなかったんだ!」


「うぅ・・・ぐすっ・・・」



謝る三崎くんとは裏腹に、霧島さんの泣き声は止まらない。



「あ・・・え・・・き、今日はもう帰るね!」



 そう言った三崎くんは半ば逃げるように教室を後にした。

するとすぐに周りで見ていた女子生徒が霧島さんに集まってくる。



「だ、大丈夫?霧島さん」


「怖かったよね!最低だよね、アイツ」



 三崎くんはもうアイツ呼ばわりされている。

これが女子の団結というものなのだろうか。



「うぅ・・・ありがとう・・・急に迫ってきて怖くて・・・」



 そう言う霧島さんを女子生徒たちが輪になって囲み、必死で慰めている。

よほど怖かったのか、霧島さんの頬には大きな涙が流れていた。

・・・ん?なんか涙の粒が大きすぎないか?


 違和感を感じた僕は霧島さんの顔を確認する。

よく見ると不自然な涙の流れ方だった。

そして涙が収まったかと思うと、霧島さんが何かをポケットにしまった。


 これはやったな。

きっと目薬か何かを手に仕込んで嘘泣きしたんだ。


 でもここで霧島さん、嘘泣きしてたでしょ?なんて言ったら女子からの総攻撃を受けるだろうな。

そう思いながら霧島さんを見ていると、女子の輪の隙間から目が合った。


 すると霧島さんは僕の方を見て、ニヤッと笑った。

僕の疑念が確信に変わった瞬間であった。


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