水泳の授業②
「よし、じゃあ今から自由時間だ。好きに泳いでいいぞ」
瞬間、わー!とみんなが騒ぎ始める。
バシャバシャと水を掛け合う生徒、どこまで泳げるか挑戦する生徒。
みんな、特別感のある水泳の授業を存分に楽しんでいる。
そんな楽しげな光景を横目に、
僕はプールの端の方で一人で仰向けでぷかぷか浮いていた。
楽しそうな、青春の音をBGMに、
太陽に照らされて流されていく。
もう日焼けしてもいいや。
その時だった、異変に気づいたのは。
急に僕の周りがバシャバシャと波立ち始めたのだ。
な、なんだ!?
僕の周りをザザーッ!と大きな水飛沫を立てながら何かが泳いでいる。
水面に映る大きな黒い影。
まさか・・・魚!?
学校のプールに魚がいる!それもかなり大きい!
泳ぎのスピードと波の立ち方から、それしか考えられなかった。
「だ、誰か!」
僕の叫びは、バシャン!と水中から飛び出したものの音に掻き消された。
うわぁ!と大きな声で叫びそうになったが、飛び出したものを見てその叫びは喉に引っ込んだ。
魚のように水面から飛び出したものの正体は・・・霧島さんであった。
「こんにちは、友崎くん」
黒い水着と白い水泳帽で海坊主のように飛び出してきた霧島さんが話しかけてくる。
「き、霧島さんか・・・びっくりしたよ」
「ごめんなさい・・・」
少し申し訳なさそうにしている霧島さん。
「泳ぐの上手なんだね、魚かと思っちゃったよ」
「確かに私の前世は魚だったかもしれない・・・」
霧島さんの前世が魚だったらそれはそれで面白いな。
「水中で息止め勝負しましょう」
「え?」
霧島さんからいきなり勝負を持ちかけられる。
「息止め勝負?でも、僕絶対負けるよ」
「やってみないとわからないです。じゃあ、せーの」
「ま、待って!」
霧島さんが強制的にスタートをかける。
先に水中に入った霧島さんを見て、慌てて息を大きく吸い込んでゴボッと潜り込む。
途端、静かな水の中に世界が変わる。
先程までの騒がしい生徒の声も、今は遠い。
聞こえるのは水の動く音。
目の前には霧島さん。
霧島さんは水中で目を開けてじっと僕を見ている。
周りには誰もいない。
2人だけの空間だった。
水中で見つめ合う2人の距離は近い。
いつもと違う光景、環境、服装に違和感を感じつつも、永遠にここに居たいとも思う。
段々と浮力に負け、僕の体が水面に上がっていく。
途端、霧島さんが僕の手を握った。
いきなりの肌と肌の触れ合いに、ゴボボボ!と口から大量の空気が漏れる。
そんなことは気にせず、霧島さんは僕の手を握っている。
僕も霧島さんの手を強く握り返した。
しかし、だんだんと息が苦しくなる。
でももっと霧島さんといたくて、僕は必死に我慢していた。
握っている手の感覚、そして美しい霧島さんを目に焼き付ける。
ついに我慢できなくなった僕は上に上がった。
「ぶはっ!・・・はぁ・・・はぁ・・・」
そして数秒後に霧島さんも上がってきた。
「・・・ふぅ」
2人とも大きく呼吸し、体に空気を取り込む。
気づけば手を握ったままだった。
しかし、僕と霧島さんのどちらも手を離そうとはしなかった。
水中で手を繋ぐ2人。
誰もそれには気づいていないだろう。
「みんな、上がれー」
体育教師の号令が聞こえる。
「・・・友崎くんの負けだね」
そう言った霧島さんは軽く微笑んで手を離し、プールから上がって行った。
残された僕は一連の出来事の余韻からか、なかなか上がることができなかった。
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