第54話 日和り見
<1854年11月15日 昼>
【吉田東洋】
「しおきやくどのぉ~っ!
つれてきたで~っ!」
あいつは!!!
来いとはいったが、斯様な手勢で城に押し寄せろとは言っていないぞ!
会談前から早速頭が痛いのは、あいつらしい…。
門越しに大声を張り上げおって!
門番がオロオロしているだろうが!!
っとに応対に困るぞ!
橋廊下から龍馬が待つ鉄門に向かって早足で歩く。
「聞こえとる!その大声をやめんか、龍馬。
で、こちらが?」
「私が楠瀬乙女。件の者です。
そして、同席してくれるのが、」
「武市半平太、」
「並びに大石弥太郎 にございます。」
「護衛も紹介した方がよろしいですか?」
「そこまでは不要。が、龍馬よ、武市や大石が同席するとは聞いておらんぞ?」
「まぁ、必要だったんでの。姉貴を連れてきた駄賃と思おてつかぁさいや。」
「まぁ良いだろう。門を開ける故、しばしお待ちを。開門!」
門を開け、案内をつけて奥の間に通す。
「護衛は建屋までは一緒で構わんが、会談場所では席を外してもらうぞ?
また、おぬしを含め武市達も刀を預かるが、いいか?」
「半平太達も構わんろ?皆にはわぁから伝えたらええきの。」
「構いませぬ。皆もええな?」
「「はっ!」」
【武市半平太】
「すまぬが、護衛の者はここまでだ。
粗茶で悪いが、用意をさせる故、待っておって欲しい。
また、龍馬をはじめ武市らはここで刀を預けてもらう。
が、我らに刀を預けるのは
気にならなければこちらで預かる。」
「「はっ!」」
仕置役様が言うが…、異議はない。
異議はないどころか…。
乙女殿とはまだ話もしていないし、
その乙女殿どころか、当日急についてまいった我らにもそのような対応は過剰ではなかろうか!?
そして何より…、
「仕置役様!
ここは
乙女殿には失礼ですが、このご対応はいささかっ!?」
「藩主様の許しは得ておる。
『失礼が無いよう応接をするべし』とのご下知もな。」
「は、藩主様もご承知…。」
道中から顔色がよくなかった大石の顔が一層曇っておる。
道中なんぞ哲馬とコソコソと話しておったが、何かやらかしておるのか?
まぁ、後で吐かせることにして、今は吉田様との話よの。
【楠瀬乙女】
こりゃぁ凄い経験だ!
現代と変わらない!
現代では『天守十二城』といって、高知城は天守が現存する城の一つ。
その中でも本丸の建造物が完全に残る唯一の城として有名らしい。
そこまで城オタクじゃないけどね。
この辺の話は、現代で何度か遊びに行った時の記憶。
あぁ、猪之助、あの辺に銅像があったんだよ。
あんたも立派になって、銅像建てられるぐらいになんなさい。
で、通されたのが
あぁ、この時代からこの姿だったんだねぇ~。
細かいところの差異はあれど、感慨深いものがある。
「どぎゃんしたか、姉貴?行くで?」
そうだ、今は話し合いが先!
奥へ通され、4人で座る。
「こちらでしばし待たれよ。
粗茶ではあるが茶を用意しておるので、少し息をつかれるとよい。」
出された茶碗には煎茶が入っている。
???
この時代、茶といえば茶道のような抹茶が主流じゃなかった?
しかも、応接間で出すものじゃない。
何が起きている???
「斯様な接待は…。」
「わ、わたしも知りませぬ。」
半平太と弥太郎も聞いたことない様子。
「わぁもこがいな接待は聞いたことすらないで。
姉貴、知っとるか?」
「知ってる。知りすぎてる。だから、私にもわからない…。」
「「「???」」」
戸惑っているうちに東洋さんが席に戻ってきた。
「すまんかったな。
さて、改めて話をしようか。
龍馬、あの書状の内容は本当か?」
「間違いにゃぁとおもっちゅう。」
「『思っておる』?」
「わぁが見たわけじゃないきの。姉貴から聞く方がよかやろ。」
「そうですね…。今からお話しするのは私の生きていた場所で伝わるものです。」
そこから地震のことを余さず伝えていく。
もちろん、前震になる東海地震、ここでの本震になる南海地震、そして豊予海峡地震についてもだ。
「あい分かった。『できる限り』『手伝おう』。」
「っ!」
「姉貴っ!」
信じてくれたのかもしれないが、あのセリフはいただけない。
龍馬に袖をつかまれていなければ掴みかかっていたかもしれない。
「姉貴、あれ、使えるか?」
「!そうだったね。
小さい画面で申し訳ないけど、これが津波の現実だ。
これを見たうえでもう一度答えて欲しい。」
タブレットを『取出し』、スマホにWi-Fi接続する。
色々試してみたのだが、私のスマホは電波がつながるが、タブレットはつながらなかった。
苦肉の策でスマホにWi-Fi接続したら、タブレットもネットに繋がるようになったのだ。
津波の一部始終をとらえた映像、被害が酷かった場所の映像、人を飲み込む映像…。
「…っ。」
耐えられず、東洋さんが口に手を当ててタブレットから目を離す。
「わかったかい?
『できる限り』の助力じゃ足りない。
あんたらの藩が被害に遭うのに『手伝う』?
中途半端なその日和見な姿勢が反感を買ってるんだろ!?」
「!?」
「「!?」」
半平太と弥太郎までもがこちらを見る。
言いたかったのはやっぱりこれか。
龍馬はニヤニヤしてやがるね。
「信じないなら信じないでいいさ!
がね、耳にした以上あんたにも責任の一端は発生するんだ!
いい加減腹をくくりな!」
『聞いていなかった』『想定外だ』なんてどれだけ聞いてきたか。
大抵は『聞いていた』し、誰かが『想定していた』んだよ。
こういうのらりくらりと保身するやつらは、悪意はなくとも悪い結果をもたらす。
後になって咎められても、悪意がないだけに
責任追及を逃れたい気持ちはわかるが、原因究明まで逃げられては後世に何も残らない。
そういうのは医局だろうが会社だろうがどこでもいるんだけどね。
皆がシンと静まりかえる中、奥のふすまが開き、人が出てきた。
「スマンな。そこまでにしてやってくれ。
東洋も少しは灸になったか?
あぁ、乙女殿には名乗っておらなんだな。
『酔翁』 山内
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます