第46話 意気軒昂

<1854年11月13日 昼過ぎ>

【楠瀬乙女】

昼も近いということで、昼飯を食べてもらった。

人によっては日に2食の時代だが、試合をした後に山道を帰るということでごちそうした。

とはいっても、龍馬が持ってきた食材を栄さんが調理したんだがね。


「それでは行ってまいります!」

「栄ねぇがいるからって気張んなて!」

本当に余計な一言が抜けないね…。

そんなんだから将来…、っと。

』んだよね。

ここでそんな将来を考えてる場合じゃない。


ここはこの二人に託そう。



【武市半平太】

「のぅ、龍馬…。」

「なんじゃ?」

整備された道を下りながら龍馬に問う。


「あれは現実か?キツネに摘ままれたと言うた方がよほど信じれるぞ?」

「おまんは…。おいを信じれんのは構わんが、自分の目を信じられんくなったら終わりぞ?」

「そうよな…。」

本当にコヤツはたまにだが的を得た答えをする。


「ま、姉貴がお主の道場は助けてくれるっち言いおったんやき、それだけで儲けもんぞ?うちはまだそがいなこつ言ってもらっちょらんからの!」

「そう、なのか?」

「ま、そうでなくともうちから出した銭は回収させてもらうつもりじゃがのっ!」

「…っ、たく、おまんらしいのぉ。」

地揺れは止めれんと言うておったが、我が道場は守ってくれるといった。

どのようにするかはわからんが、なんぞ方策があるのであろう。

だが、龍馬は相変わらず抜け目がないの…。

武では負ける気はせんが、商いでは勝てんわ。


「が、それは地揺れを生き抜いてこそよ!

 おまんらの働き次第では国が変わるで?」

「国が?」

「おうよ!土佐どころじゃにゃぁ!日ノ本が変わるぞ!

 『尊王』も『攘夷』も『開国』も、全部ひっくり返るぞ!」

こいつの自信はどこから来るのか…。

が、こいつには見えとるらしいに、おいも賭けてみたいの。



<1854年11月13日 夕刻>

【坂本龍馬】

「もう遅いで?泊っちいかんのか?」

もう日は傾き、空は茜色に染まっちゅう。


「ありがたいが、できれば一度帰ってから頭の整理をしたい。

 頭の固いやつらがぎょうさんおるからの。」

「まぁ、おまんがかしらじゃもんな。」

「おまえは…。

 それに、まぁ、説明したとはいえ坂本一家とはわだかまりがある。

 お互いに気が休まらん故な。」

確かに一朝一夕では半平太も兄上も収まらんだろうの。


「わかった。おいは明日の朝一番に出る。

 まぁ、今晩は色々絞られるじゃろうき、早い時間は期待せんでくれや。

 例のも持って行くき、頭の固いやつらが帰るのだけは阻止してくれや。」

か。が、だけではどれほどわかる者がおろうか…。」

「ま、口先だけならわぁにも勝つでの。まかしとき!」



<夜>

【武市半平太】

「今戻った!」

「お待ちしておりました!」

「ご無事で!」

門下生が待っておってくれた。

じゃが、心配戦でええ戸言うたに、こがいに遅くまで待ってくれておるとは、嬉しいもんよ。


「心配をかけたな。

 が、思った以上の収穫があった。」

「おぉっ!」

「それはっ!?」

一同が迫ってくる。が、ここでは言えん。

言う時は皆を集めて乾坤一擲の喝を入れんといかん。


「まぁ、今言うても全員そろっちょらん。

 わしも遠出で疲れてしもうとるき、今からで悪いが、明日の朝にここに集まるよう、皆に伝えて欲しい。」

「かしこまりました。」

「あ、後、酢と桶二つと包丁はあるか?」

「?あ、ありますが…?」

「古い包丁でええからな、この包丁と別々の桶にいれて巣をぶっかけておいてくれ。」

「…はぁ?錆びるだけでは?」

「分かるように布巾の色でも変えておけ。

 あとはいじられんよう2人組で順番に見張っておいてくれ。

「はぁ…」

「今はわからんだろうが、意味は明日分かる。」



ふぅっ…。

体の疲れよりこれからの頭の疲れよ…。

どがんして説明すっか…。



<同日夕刻>

【坂本権平】

「たっだいまぁ~っ!」

ったく、ほんに調子の狂うの。


「どうであったか?」

「おぉ!姉貴はよろこんじょったで!栄ねぇも腕の振りがいがあるとな!」

「そっちはどうでもいい!半平太じゃ!」

「…どうでもいいとは…。半平太と二人してもヒィヒィ言うて運んだんじゃき、もう少し労いの言葉っちゅうもんが…」

「龍馬っ!」

千鶴がしびれを切らしてしもうた。


「半平太はどうなったの!?」

「…ぼっこぼこになっとったで。精神的にも剣でもの。」

「乙女殿の強さは知っておるが、精神的とは?」

「…おいも一緒に見させられたんじゃ、…大津波の様子を。」

「して?」

「海から波が押し寄せてきて、家を飲み込んでいく。

 飲み込まれゆく家に残された人、女子じゃったろうか?子を抱え必死に叫んでおったようじゃが…すぐに、引き波にさらわれていった…。四半刻もせんうちの出来事じゃ。

 おいでさえ目をそむけたくなった。」

「…。それほどか。」

「あぁ、二度と見とおないな…。予想の万倍じゃ。

 姉貴が言うに死者は数千人と。『』だけでぞ!?」

「龍馬、落ち着いて…。」

「…すまん、ちづねぇ」

「うちや半平太達だけではどがいにもならん…。

 藩主様にお目通りせんと…。」


「それだがの、龍馬、よくやった!

 昨日連絡が来て、明日か明後日の都合の良い時間で構わぬから乙女殿を連れて参内せよとのことだ。

 これだけの時間を設けてくれることなぞなかなかない。ほんによくやった!」


「評価してもらうのは嬉しいが、また姉貴のところまで往復か…。

 売ってくれんかの???」

「資金は貸すぞ?返せんかったら減らず口を言わずに働いてもらうことになるが?」

「え、遠慮しときます…。」


明日は半平太のところに行かんがに、おいはどんだけ走らされるんじゃ?

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