第44話 焼き戻し
<1854年11月12日 夜>
【坂本龍馬】
「…、そがいなっ!そがいなことあってたまるかっ!」
「…、そう思いたいのはわしもじゃ…。」
半平太が声を荒げちょる。
ふと漏れたのは同じ思いからじゃ。
「…未来っ、未来から来たのであろうっ!?
どうにかできるのではないかっ!?」
「そうさね…。
確かに私は約200年先から来たみたいだ。
江戸時代が約250年だから、いかに長いかわかるだろう?
だが、そんな未来でも地震はどうにもならないのさ…。」
「だがっ…。」
「これを見てみな。
残酷だが私の時代に起こったことだ。」
姉貴が黒い板をいじくる。
そこに映ったのは色が付いた写真より鮮やかな景色。
これは…、奥に人がおるようじゃ…。
けたたましい音からしばしして音と共に奥から波が押し寄せてきおる。
悲鳴とと共に家らしきものが流されていく。
「こ、これはっ…?」
「事実だ。今で言う写真がもっと進んだものだね。
それに、あんたはいいほうだ!
家が崩れるだけなんだから。
何人死ぬと思ってるんだ!」
「…っ、姉貴、そがいに人が死ぬんか…?」
「細かくは分からないが、全体の死者だけで数千人と言われている。」
「「!?」」
「さっき見たように沿岸部は壊滅だろう。
山間部は土砂崩れの規模次第。
地震が収まっても復興までにどれだけ時間がかかるか…。」
…、思うちょったより大分…、いやかなり酷いの…。
ほいでわしらにも声をかけたんじゃな…。
「半平太、知り合った誼だ。
あんたの道場は救ってやる。
だから門下生を動かせるか?
いや、動かせっ!」
姉貴が是非も言わせぬ気迫で凄む。
こいつは半平太だけでは足らんかもしれん…。
【武市半平太】
乙女殿の気迫に頷いてみたはいいものの…。
現実を見直してはっとする。
「乙女殿、門下生を動かすことに相違はござらん。
が、ご存知かとは思いますが、
我らは尊王攘夷を掲げる藩士の集まりでもございます。
龍馬をはじめ、藩の方針に従うのを是としておりませぬ。
そのため、先の龍馬の姉、栄殿の離縁にも繋がってしまいました。
龍馬は我らの『統率力』を買ってくれておるようですが、力になれるかどうか…。」
「はっ!『尊王攘夷』!?
ご立派だが、あんたらができるのかね!?」
乙女殿の目が変わる。
しかし、それごときでわしの思いは変わらん!
「『出来る』『出来ない』ではござらん!
『やらねばならぬ』ことっ!!」
「あぁ~っ…。
頭が固いで有名な半平太だねぇ…。
で、『黒船』の砲に対応できるのかい?」
そこまで言われてはっ…。
考えておった戦術を披露する。
「黒船の砲はわが方より射程距離が短いとのこと!
砲戦では負けませぬ!」
「あぁ~っ。
『並べて』『砲が勝てるか』じゃないんだよ。
今、高知沖に来たらどうするんだい?」
それは承知のこと!
続けざまに述べていく。
「乗り込んで撃滅いたします!」
「…。龍馬、あんたが『阿呆』だって言った理由がわかるよ…。」
「姉貴も痛烈じゃのぉ。」
乙女殿が頭を抱えてこちらを見つつ、龍馬に問いかけた。
馬鹿にしとるのか!
「いいかい?
あんたの言うことを実現する、つまり黒船が来ないようにするには、
最新の大砲を日本すべての沿岸部に据え付ける必要があるっちゅうことだが、いくらかかるのか計算したかい?」
「…!」
それはっ…。
「あぁ、いいよ。
穴になる部分を藩士で押さえるんだったね。
俸給はいくらで、何人が日本で必要かね?」
「っ~…!」
他の藩まではっ…。
「で、運よく出会った船に乗り込むと。
大砲をかいくぐったとして、お前さん、鉄砲の射程知ってるのかね?
火縄銃じゃなく、鉄砲だ。
船に乗り込むまでにどれだけの藩士が生きていられる?
それに対して乗組員は何人?」
「…わかりませぬ。」
「あんたが言う『尊王』は立派なものだ。
未来の人間もその想いを持ってる。
が、『攘夷』は違う。
あくまで『尊王』のための『手段』だろう。
天皇陛下がそう思っていたとしても、それが陛下のためになるのか?
私としてはもう少し時世を読むこと、つまりはあんたの対極にいる『龍馬』ともう少し話をするよう勧めるよ。」
「まぁ、半平太はわかっとらんが、わしも基本は攘夷じゃきぃの!」
「しかし、しかしながらっ!」
「これを見てもかい?」
乙女殿が『ぷーっ』となにぞ膨らませる。
風船か?
が、それは乙女殿の手を離れると宙に浮いていった。
「これをどう思う?」
乙女殿が問うてくる。
「妖術の類かと…。」
「妖術?
現に浮かんでさわれるだろう。
だからあんたはダメなんだよ。
妖術なんかこの世にないと思いな。
まぁ、あるかもしれないけど、ほとんどの人は見たことないね。
モノが浮くには
それと同様に、弾が飛ぶにも理がある。
もっと言うなら、モノを切るにも理があるんだよ。
病だって理があるんだ。
それを「妖術」なんて切って捨てて、現実を見ないのがあんたの欠点さ。
分からないことを『妖術』なんて言ってる限り外国に攻められる一方。
なんなら、『尊王』もできない国を惑わせた国賊、つまりあんたが『妖術使い』になるよ。」
「まだ迷っているならこれをみな。」
用意していたあるものを浮かべる。
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