第43話 先のこと

<1854年11月12日 昼下がり>

【武市半平太】

「ハァッ、ハアッ!

 龍馬!まだか!」

山の中を進む。

入口を見たときは愕然としたが、少し進めばかなり整備されている。

大八車でも通れる程度だ。

が、満載の荷物は重いっ!


「っ…。

 おまんも、まだまだ、じゃのっ!

 おいはっ、前回、父上担いで、もっと険しい道を、行った、でっ!」


「お前の、兄上も、おったらしい、では、ないかっ!」


「もう、見ゆっぞ!」


「っ〜!」


精一杯大八車を押し、顔を上げてみると道場らしき建物と、隣になんぞやある。


「はぁっ、はあっ!

 着いたでっ!」

二人して地面にへたり込む。


「姉貴ーっ!

 はぁっ、はあっ。

 戻ったでー!」


「はいはい、遠くからあんたのガナリ声は聞こえてたよ。

 で、そちらは?」


「龍馬の、遠縁の、武市、半平太と、申します。」


「こいつに巻き込まれたのかい?

 疲れてるとこ申し訳ないけど、もう一息、道場まで頼むよ。

 ゆっくりでいいよ。茶を用意してくるから。」


「…っ、かたじけない。」



【楠瀬乙女】

裏で能力の検証をしていたところ、元気のよい声が聞こえたので登山道?の入り口に行ってみる。


龍馬が大量の食材を大八車に載せてきたようだ。

『収納』の実験ついでに道を舗装しておいてよかったね。


しかし、あれは誰だ?

ここはあんまり見せるべきところじゃないんだが…。


その名を聞いて驚いた。

あぁ~っ…、こいつはまた大物連れてきてからっ!

『尊王攘夷といえばこいつ』、ぐらいの奴じゃないか。

まぁ、伝記を見れば、まっすぐで負けん気が強く、一途で人望もあった男だ。

が、まっすぐすぎるきらいがあるのも確か。

さっきのやり取りみたいに、龍馬とそりが合わない部分も多々あったんだろうね…。


まぁ、きちまったもんはしょうがない。

ここは知らん顔して応対してやろうか。

裏に下がって、ちょいと調べておくかね。



【武市半平太】

そこにおったのはうら若き女子おなごであった。

ただ、発する気は只者ではなさそうだ…。

龍馬の言うか…。


まぁ、ここまで運んできた食材もある。

もう一息、運び込むとするか。



【坂本龍馬】

「おい、次をもってこんか。」

半平太が口を開けて静止しておる。

まぁ、そがいなるわの。


昼下がりの外より明るい道場、

扉を開ければ真冬かと思う棚、

ふんだんに使われた硝子。


おいも最初は似たようなもんじゃったきの。


「とっとと運ばんと姉貴にどやされるで!

 栄ねぇもおるんじゃき、気張らんか!」


「え、栄さんは関係なかろう!

 すぐ持ってくるわ!」


ん?

姉貴がなんぞ準備しちゅうが…。

茶ではないの。

あの黒い板にもなんぞあるんかの!?



【楠瀬乙女】

はぁ…。

頭が痛いね…。

薬が効かないほうの頭痛だ…。


『武市半平太』、調べてみれば別にドラマの様なわからず屋ではない。

さらに言うなら、今なら間に合いそうな程度なんだが…。

龍馬はそれをわかって連れてきたんだろう。

つまり、『現実を見せろ』って言いたいんだろ、こいつ?


道場に大きめの壁掛けテレビがキャスター付きで置いてあるから、

それに携帯を投影してやるか。


あとは、を用意しておくか。



【武市半平太】

出してもらった茶を貰い、一息つく。

体力もそうだが、あれやこれや分からぬものばかりで気もそぞろだ。


先の女子は『楠瀬乙女』と名乗った。

苗字があるとは…、士分か?

が、そのような名前聞いたことがないが…。



「『武市 瑞山』もとい『武市半平太』。

 幼名は鹿衛かえい

 あざな小楯こたて

 土佐藩郷士・武市正恒まさつねの長男。

 妻は土佐藩郷士島村源次郎の長女富子とみこ

 嘉永6年に西国筋形勢視察の任を受けるが、辞す。

 嘉永7年に道場を開き中岡慎太郎や岡田以蔵等を門下に迎えるも、

 安政元年の地揺れで家屋を失う。」


乙女殿がこちらに向きなおって告げる。

龍馬が伝えたか!?

龍馬を見るが首を振っておる。

が、その後じゃ!


「『安政』とはっ!?『家屋を失う』とはっ!?」

そこじゃ!

建てたばかりの道場じゃ!

そこには妻もおる!



「知りたいかい?」

「あぁっ!」

「知れば戻れなくなるよ?」

「承知の上!」


…、龍馬め、ニヤニヤしやがって。

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