第42話 相違解消

<1854年11月12日 朝>

【武市半平太】

龍馬と共に朝餉あさげを食す。

誤解は解けたものの、こやつと一緒にいると調子が狂うのは相変わらずだが。


「今日は一度家に寄ってから、未来を見に行くで。

 道場のこともあるやろうき、あとから家で合流しよか?

 昼前には来てくれや。

 あんまり遅いと苦労するのは自分やき、早めに来るように頼むで?」


「分かった。

 門下生に伝え次第、そちらに向かう。」



朝食を取ると龍馬はさっさと帰っていった。

道場にはポツポツと人が集まりはじめている。

上位の者や、師範代も揃いつつあったので、集めて話をする。


「昨日は騒がせてしもうたの。

 栄さんの件は龍馬とも話をし、手打ちをした。」

門下生がどよめく。


「が、以降我らが勝手なことをしないようにも約束をしておる。

 此度のようなことは二度とないよう心掛けよ!」

「はっ!」


「今日は坂本家に対しても謝罪をしてまいる。

 また、龍馬ががあると言っておるので同行することにした。

 早ければ明日、遅くとも明後日には帰ってくるが、留守を頼む。」

「闇討ちや暗殺などではっ!?」


「それならそもそも道場に顔を出したりせんだろう。

 あんなアホ面下げておるが頭は回る。

 証拠を残したり、自分が疑われるようなことをする奴ではない。

 あいつも一介の武士であるし、それぐらいは信用しておる。

 まぁ、万が一は頼むが、心配するな。」

「はっ!」



【坂本権平】

「ただいま戻ったでー!」

呑気な声に苛立ちが増す。

すかさず千鶴が玄関へ赴くや否や、不詳の末っ子にゲンコツを喰らわす。


「どこほっつき歩いてたの!」

「…いちちちち。ちづねぇ…、心配しちくれとんなら、も少し優しゅう…、あいたっ!」

「もっと愛情が欲しいって?」

「は、腹いっぱいですっ!!」


千鶴が代わりに怒ってくれたおかげで、こちらの怒気は消し飛んだ。



「…、で、書状は渡せたのか?」

場を改めて龍馬に問う。


「おうっ!

 御家老の吉田東洋様に直々に手渡して来たで!

 あの様子じゃと、藩主様に諮ってもらえるはずじゃ!」

流石に領主様直々は無理か…。


「まずは重畳か…。

 では次のお役目だな。」


「ほんに人使いが荒い…。」

「あんたが夜な夜なほっつき回ったせいでしょ!」

「わ、わかっとりますっ!」

千鶴が拳を振り上げる。


「まぁ、そこまでじゃ。

 こいつもなんぞ考えがあるやも知れんしな。

 次の役目は乙女殿の診療所にこれを運んできてくれ。」


「あ、兄上?

 がいに…、ですか…?

 …お、怒っちゅう…、わけじゃ…?」

食材を目一杯載せた大八車を見やる。


「フフフ…。怒ってはおらんぞ?

 乙女殿には感謝せんとな?

 これはそれ程商いが進んだ証拠。

 怒ってはおらんが、一晩分増えたのやもしれんのぉ…。

 おお、皆商いに忙しくてな、お主一人で運んでもらうからの?」


「…、兄上を怒らせたのは失敗じゃったのぉ…。」

龍馬がガクッと頭を垂れる。



「失礼いたします!」

「!天の救いが来たで!」

龍馬が玄関へ駆けていく。


「「?」」

天の救いとは??



【武市半平太】

「失礼いたします!」

坂本家の道場にやってきた。

龍馬と昨晩和解したとはいえ、一家とはまだ話ができていない。

先に帰った龍馬が話をつけていてくれれば助かるのだが、あいつに期待するのは無理な話。

怒号は覚悟せねばな。


「よおー、早かったのぉ!」

頭を擦りながら龍馬が出てきた。

なんぞやらかしたな?

話が拗れんとええが…。


「半平太!?おのれっ!」

「伊予殿!塩を!!」

あぁ、これはまだ話をしとらんな…。

権平殿と千鶴殿の罵声が奥から聞こえる…。


「ほ、本日は先の件について話をしたく!」


「兄上!堪えてつかぁさいな。

 事情は聞いておるが、改めて話をしちくれるんじゃ。」


「お前!昨晩は半平太のところへ行ったのか!?」


「まぁまぁ、姉貴の件で手伝いが欲しくての?

 栄ねぇの件は成り行きじゃ。

 ほれ、半平太、あがっちょくれや。」

本当にこいつは調子が狂う…。



【坂本権平】

とりあえず、説明のためと上へあげた。


「先はすまんかった。

 ちと頭に血が上りすぎてな…。

 が内容如何によってはただでは済まさぬぞ?」


「分かっております。

 ことの始まりは吉田様が参政になられてからのこと。

 幕政改革の中で苦しむものや、黒船来航に対する幕府の弱腰に不満を持つものが多く私の道場に参りました。

 私も尊皇攘夷を唱えておりますが、門下生の一人が栄さんの旦那を配下にしようとしておりました。そこまでは良かったのですが、吉田様に繋がりがあるということで、以後栄さんに辛くあたっていたという次第です。決して離別を勧めた訳では無いため、如何しようかと悩んでおった次第。誠に申し訳ございませぬ。」


「まぁ、昔栄ねぇに恋慕しとったっちゅうても、今じゃカミさんもろおちょるし、やましきこともなかろうて!」

「龍馬!なぜそれをっ!?」

「見とりゃわかるがに、隠しちょったつもりか?」

「龍馬も止めい。

 あい分かった。乙女殿の件も手伝ってくれるとのこと、これで手打ちといたそう。」


「かたじけない。

 手伝うかは言うておりませんでしたが、これを運ぶので?」


「おおっ!頭抱えちょったから助かるで!

 が、その後を手伝うかは姉貴のところに行ってからじゃの。」


「姉貴?栄さんのところか?」


「まぁ栄ねぇもいるが、姉貴は別よ!

 行ってからのお楽しみじゃ!」


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