第41話 未来志向

<1854年11月11日 夕刻前>

【坂本龍馬】

「はぁっ!」

「なんのっ!」


着いたのはとある道場。

なかから打ち合いの声や素振りを数える声が聞こえる。


えぇ道場じゃのぉ。

さて、入るか。



「頼もぉ~っ!」


「何奴っ!」

「誰だっ!」


「おぉ、えぇ反応するのぉ!」


「まてまて。がいな挨拶するやつに心当たりがあろう?

 龍馬っ!お前かっ!」


「ありゃ?

 バレてしもたか?」


「当り前じゃ。

 もう少し入ってこれんのか?」


「いやいや、わしは他流派じゃきの。

 間違ってはおらんろ?

 …とはいえ、栄ねぇのこともあるきの?」


道場がざわつく。


「まぁ、冗談じゃて。

 がいに殺気立つな。

 むしろおいとしちゃ、あがいな小物と別れさせてくれて感謝しちゅうぐらいよ。

 が、今日はそれで来たわけじゃなかぞ?」


「はぁ~っ…。

 皆は修練に戻れ。

 龍馬、お主はこっちにこい。」


「あいよぉ~っ。」


半平太に連れられて奥の部屋に行く。




【武市半平太】

まったく、こやつは自由過ぎる。

7つも年下だというのに、敬うことを知らんのか。


「で、何しに参った?」

「おぉ、道場の開設祝いじゃ!

 これを持ってまいった。」

…。

ったく、そがいなこと柄じゃ無かろう…にっ!?


「わかるか?

 じゃ。」

包みを開くと黒光りする菓子。

慌てて龍馬の顔を見る。


「なぜ斯様な品をお主がっ!?」


「まぁ、ある伝手での。」


「…、何が望みだ。」


「おうおう、話が早くて助かる!」


「はぐらかすな龍馬!」


「まあ、そがいに焦るな。

 ちいとばかし人足が必要なことがあっての?

 門下生含めて助けて欲しいんじゃ。」


「お主の実家も商家で人がおろう…、

 それでも足りぬというのか?」


「そうじゃ。これでも足りん。

 もし増やしたとしても、お主んところのように統率して動ける人間は、

 喉から出るほど欲しい。」


「…。はなんじゃ」


「…地揺れよ。大津波を伴う大地揺れじゃ。」


「!?」


「信じられんと思うが、一月ほど先に地揺れが起こる。」


「嘘ではなかろうな!?」


「まぁ、そこはおいも言い切らんで。

 が、おいは起こると信じちゅう。」


「ならばなぜそこまで肩入れするっ!」


よ。それに尽きる。

 のぉ、半平太、一度から判断しては遅くなかろう?

 流石に日も暮れてきて、これから家に帰るのは骨を折るでの、

 泊めてくれやせんか?」


「…、いいだろう。」



【坂本権平】

「…、遅い!」


どこで油を売っておるのか、一向に帰ってこん。

まぁ、あいつならどこぞの輩に絡まれても大丈夫とは思うが…。


乙女殿へ運ぶ荷物を倍にしてくれるわ。



【坂本龍馬】

姉貴からもろうたちよこれいとが役に立ったの。

さて、頭の固いこいつに現実を突き付けねば。



【武市半平太】

形はどうあれ、祝としてあれだけの物を貰ったのだ。

一献用意してやった。


「いや、有り難い!

 …ところでのう、半平太、おんし何故にお役目を辞退した?」


「それは道場を開くために…」


「違うやろ?

 も一つ、しかもそっちが本命じゃろ?」


「…、分かっているなら聞くな。

 外国に頭を下げるようなことをしたくなかったんじゃ。」


「だろうと思っちょった。

 が、あれは見ておくべきじゃったぞ?」


「結果は聞いておる!」


「『百聞は一見にしかず』。

 伝え聞くのはほんの一部よ。」


「何が言いたい!」


「おいは江戸で日の本の未来を見た。

 いや、見たじゃった。

 此度、さらにその先を見る機会を得たんじゃ。

 が、その未来でも地揺れは防げんときた。

 頼む、この通りじゃ!

 助けてくれんか!?」

あの龍馬が俺に頭を下げておる…。


「頭を上げてくれ…。

 俺もお前に頭を下げなければならん。

 栄さんの件、俺の指示ではないが、門下生が暴走してしもうてな。

 制裁はしたが、謝罪までするかは割れておったのんじゃ…。

 お前に『統制された』と言うてもろうておいて申し訳ない。」

栄さんには幼い頃に良くしてもらっておいて、自分でも虫がいいと思う。


「がいなことは構わん!

 来たときにも言ったが、おいはせいせいしちょるぐらいやきぃの!」


「が、手伝うかどうかは別の話よ。

 おんしですら分からんもんに手はかせんぞ?」


「まぁ、そじゃろ。

 が、おんしも見れば信じるやろうて。

 一度、を見てみんか?

 攘夷すら言えんくなるかもしれんがの?」

龍馬がニヤリと含みを持った笑顔で笑っておった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る