第39話 胸中成竹
<1854年11月9日 夜>
【楠瀬乙女】
坂本一家の感触は上々。
千鶴さんはあげた口紅を塗ってご機嫌だ。
「乙女殿、我らは一度家に戻ろうと思います。」
「いっぱいもろたで、わぁも運ばんといかんきの!」
「このように、こやつも連れて帰りますので、乙女殿のお力の検証も進めていただければと思います。」
「追加してもらった品を売りさばいたり、既存の行商先に参加券を配る準備とかありますから。」
「参加券はもうあるんだ。ほれ、これが参加券だよ。」
大量の印刷物だ。連番も打ってある。
どうやら余興係が患者に配っていたらしく、
やさしくしてくれた医者やスタッフにあげるというルールだったそうだ。
参加券が多かった人は、ビンゴカードも増え、豪華賞品を奪っていった。
まぁ、そういう奴ほど後日患者に還元していたみたいだけどね。
法的にどうなのかは置いといて、患者ファーストを目指そうとする仕掛けをしてくれたのは、本当に嬉しかった。
どうやら、年末までそれを続けようかともしていたようで、その遺産が手元にあるわけだ。
「おぉ!これならすぐにでも取り掛かれますな!」
「そうかもしれないけど、今から帰るつもりかい?」
「そうですな。栄にも説明しておいていただけますか?
明日明け方に発つことにいたします。」
「わかった。置いてきた品ともども、売っといてくれよ。
龍馬、あんたは食料品持って戻ってきなよ、一番体力があるんだから。」
「ほんに姉貴は人使いが荒いのぉ…。」
「押しかけてきてなんだい?
またのしてやろうか?」
「けっ、結構でございます!
食べ物を持って一目散に参りますゆえ!」
「はいはい。
で、いつごろ到着だい?」
「夜明け前に出立すれば、昼前には着くはず。
伊予殿には2日程度開けるとしか伝えておりませんので、急いでまいります。
朝早いと思いますので、改めてのご挨拶はご無礼いたします。」
「そうかい。
まぁ、これを持って行きな。
こう、頭をひねれば中の水を飲めるし、
元に戻せば水が漏れることもないから。」
500mlのペットボトルに入った水を渡す。
「以降の連絡役は龍馬でいいかね?
みな、無事にたどり着いておくれよ。」
「お任せを。」
「行ってきます。」
「行ってくるきぃの!」
【栄】
看病のために離れているとはいえ、このように暖かな布団に包まれて眠れるのは幸せなこと。
父上からも、お家のことについては考えなくてよいと言っていただきました。
父上だけでなく、まるで私の治療までしてくれているようです。
せっかくの機会、ゆっくりさせていただきましょう。
【坂本八平】
ほんに気ぜわしい一日じゃった。
が、諦めておった中に光は見えてきた。
乙女殿が処方してくれた咳止めで、だいぶようなった。
が、咳が止まっただけで病気の種は消えていないということで
安静を言いつかっておる。
栄と談笑をしておったところ、千鶴が作ったという夕食をもって
乙女殿が病室にきた。
栄は乙女殿の指示に従い、一旦自分の部屋に行って食してにいった。
食事が終わり、改めて私達がいない間に決まった地震の対策を、
一つ一つ説明してくれた。
権平がそこまで即断即決ができるようになったのは良きことだと感心した。
これならば乙女殿の役に立つであろう。
「ま、現状はそんなところだよ。
二人は治療に専念してもらうしかない。
私もできることは能力の確認ぐらいだし、お互い焦らずに進めよう。」
焦る気持ちがあるのは乙女殿だろうに、気丈に振舞っておる。
大きな恩と借りができたのかもしれんな…。
が、聞くほどの地揺れとなるなら、ご家老、藩主様の耳に入れねばならぬの。
権平が根回しをしておればよいが…。
【楠瀬乙女】
3人と別れて、八平さんと栄さんと説明を兼ねて食事をとった後、
自室の布団の中でこれからについて考えた。
龍馬の提案で山間部の村の対策はある程度、なんとかなりそうだが、
『収納』について、どれだけできるのかは未知数。
これ以上は何らかの権力がないと無理そうだ。
明日は一日、収納の検証に時間を費やすかね。
<1854年11月10日 昼前>
【坂本権平】
家についた。
何日も空けてしまったような、これまでのことが嘘だったような気がしてくる。
「ただいま戻りました!」
「権平殿、いかがでしたか?」
奥から伊予殿が現れる。
まずは父上の説明をせねば。
「父上は見立て通りで、診療所で静養が必要とのこと。
ただし、治る可能性は高いということです。」
「それはよかったです!」
伊予殿の顔が明るくなる。
が、もう一つのことも伝えねば。
「が、宿題もでき申した。
詳しい話は夕餉にでも。」
「わかりました、少々お待ちくださいね。
太郎もおりますゆえ、待っている間に一度湯あみをお願いいたします。」
「かしこまりました。」
先に風呂の支度に行った龍馬の後を追って風呂に向かう。
【北代伊代】
さようなことが…。
千鶴さんも龍馬も口を挟まない様子から、間違いはなさそうです。
が、素直に信じるにはあまりにも…。
「信じられませんでしょう?
私も未だにそうです。
ですが、あの診療所に行けば信じざるを得なくなりますよ。」
千鶴さんもそういう以上、私も飲み込みましょう。
「で、その地揺れにはどうしたらいいのですか?」
不肖ながら、できることは手伝いましょう。
<1854年11月11日 朝>
【楠瀬乙女】
朝だ!
昨日は千鶴さんが出立前にもかかわらず、ご丁寧に朝食を用意してくれていた。
今日は栄さんが朝食を作ってくれた。
栄さんもあれだけの食材でよくもまぁ…。
今日は間隔をあけて皆で食事をとるようにした。
一人ぼっちの食事は味気ないからね…。
【坂本権平】
店にやってきた。
「皆の衆、家を空けて申し訳なかった。
母上から皆がよくやってくれていたのは聞いておる。本当に感謝する。
家を空けておったのは、父上を見てくれるという医者がいたので
連れて行ったまでだ。
数か月で元気になって帰るそうじゃ。
耳が痛いやつもおるであろうが、鬼の居ぬ間に洗濯しておけよ。」
各所から笑いが起きる。
「で、その最中に新しい商売のタネが浮かんだのでな、今日から施行していきたい。」
参加券、ビンゴカード、抽選機を皆の前にだす。
「モノを2銭売買してくれる毎に1枚、この参加券を渡す。
そして参加券20枚と引き換えに福引をする。
で、相撲巡業の際にとなりで福引をする。
福引に参加するにはこの紙を使う。
参加券20枚と交換だ。
福引の仕方は見るよりやる方がいいか?
3人ほどやってみるか?」
やってみると周りも含めて盛り上がる。
「ですが、2銭の売買を20枚っちゃぁ、
なかなかの量になりませんか?」
「うむ。もちろん日用品もこれまで通り売るが、新しい商材がある。」
乙女が提供した品の数々だ。
個々の細かい説明を龍馬がする。
「こいつはすげぇ…。」
「これなら売れるで!」
店員たちが色めき立つ。
「これらは当日競売にかける。
が、その競売に集まってもらうには凄いものがあると思ってもらわにゃいかん。
大店にはこのビー玉を見本で配る。
さらにうちからは温泉旅行を商品にする。」
「温泉旅行?」
「当たれば経費をこちらでもって負担する。
家族で当選すれば家族分もだ。
何なら村一同ぐらいまでは面倒見よう。
ただし、抽選会場に同席していたもののみだ。」
「へっ!?なんでまたそこまで??」
「まぁ、人を集めたいのだ。
だから、いつもは回らないような山間部の村々を優先して回ってほしいが、
できるか?」
「…、はぁ。いわれりゃできますが…。」
「大丈夫じゃ!番頭殿!!
赤字にならんほどあの商材は仕入れちゅうがに!
それどころか黒字になるで!」
「はいはい、龍馬さんも目敏いですね。
確かにこれを目玉にすれば、一気に商いも進みますね。
わかりました。手配します。
皆!聞いたね!商いに行くよ!」
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