第38話 衆議一決

<1854年11月9日 昼前>

【楠瀬乙女】

そう、特効薬があったのは本当に偶然。

タイムスリップする最近、近くの小学校で結核の集団感染があった。

だから数人分の薬の用意をするよう県から指示があった。


で、こんな片田舎の病院だから、院内処方なわけ。

院外処方が当たり前だけど、入院患者を受け入れるには院内処方が必要だし、

せっかく田舎に病院ができたのに、薬を貰いに街に出るのは大変だろうと、院内薬局を作ってた。

その在庫の中に結核の薬があったのが不幸中の幸いだろう。


まぁ、ちゃんと服薬をして、看護をする栄さんが清潔を維持していれば治癒する。

っていうのはこの時代では大きい


栄さんに八平さんのことを任せ、シャワーを浴びて再び道場に戻る。

昼前にもう一度集まって、権平さんたちに説明をする予定だったからだ。

とはいえ、予定より早い時間に道着を着てきたことから、再び型の練習をする。



「…、戸惑いが見えますね…。」


声がしたかと思えば、後ろから剣戟が襲ってきた。

振りむき、必死で薙刀を合わせる。


そこにいたのは千鶴さんだった。


「どういうことっ?」


「悩みをっ、発散っ、させるにはっ、良いとっ、思いっ、ましてっ!」

言いながら薙刀をふるってくる。

本当にこの姉弟は!!


数合合わせ、距離を取り、改めて千鶴さんに問う。


「どういうこと!」

「…悩みがあるのでしょう?

 私たちに言ってないような…。」

…。

分かるのか…。

目の前の一人を救うだけでこれだけの時間がかかった。

これからどれだけのことができるのか…。


「…。

 そうね。

 私ひとりじゃ限界みたいだ…。

 助けてほしい!」


その一言を合図にしたように、龍馬、八平さんが姿を現す。

「言うのがおせぇのぉ。」

「父上を助けてもらった恩は返さねばいけませぬな。」

ったく…、くさいんだよっ…。



<夜>

【坂本龍馬】

姉貴にもできん事があるっちゅうことやな。

そして、わぁがでもできることがあるっちゅうことや!



【楠瀬乙女】

とりあえず、地震についてわかる限りのことを伝えた。


記録に残る被害の様子を伝えただけでは信じることができなかった様子で、

タブレットに東日本大震災の映像を映して見せた。

無修正の映像に、千鶴さんは気分が悪くなったみたいだ。


「これと同等か、それ以上の被害が起こるんだ。

 どうしたらいいか一緒に考えてほしい。」

一同が押し黙る。

被害の規模が分かったとはいえ、まだ状況が飲み込めていない様子。


「今の時点では地揺れも津波も対策が思いつかぬが、

 そのあとなら…。

 乙女殿の言う通り救護所を設けることもそうだが、

 食料を集めて乙女殿のところに集めてはどうだろうか?

 『収納』があれば、乙女殿が行く先で配布できる。

 うちの力を使って今から食料を買い集めよう。」

助かる。

そういうことならと売れそうなものを権平さんに渡す。


「そうですね。

 ただ、この相撲巡業…。

 人が混乱したとありますが、

 中止にすれば各所から非難されそうで、

 いかがすれば…。」

千鶴さんがそれに気づく。

正直どうするか悩んでいた一つだ。


「いやいや、もっと集めりゃよかろうが!」

「「はぁっ!?」」

龍馬の提案に私を含め、全員が顔を見合わせる。


「がいな催し物、他にあるまいに!

 姉貴も山々すべての部落まで回っておられんろ?

 これをエサに、山間部の人間まで集めてしまうんじゃ!」

こいつは驚いた。

確かにそうだ、逆転の発想。

集めてしまえば効率はいい。


「けど、具体的にはどうする?」

「富くじじゃ!」

「龍馬っ!」

権平さんが問うと、龍馬は富くじ、現代の宝くじだと言った。

それを千鶴さんがたしなめたのだが、この時代は宝くじは違法とのこと。


「けど、いい案だ。

 千鶴さん、さっきの説明だと福引は禁止されていないんだよね?」

「は、はい。

 ですが、今からそれほどの割符を作るのは現実的ではないかと…」

「割符ほど偽造を気にしなくていいよ。

 配るのは

 何枚か一口で、当日のくじに替えるようにする。

 まぁ、多少の偽造は割り切ろう。

 に来てくれることが大事だ。」

「そうか!商売の際にそれを配って回ればいいわけだな!

 しかし、当日押し寄せる民衆を前にどうやってくじを引けば…?」

「そいつは秘策があるよ。」

そう言ってガサゴソと物置の奥からを取り出す。

病院引退の際にやったゲーム一式、だ。

余興組が忘れていったものだ。


「これを使う。やったことがないだろうから一度やってみようか。」

カードを配り、真ん中の穴をあけてゲームを始める。


「お、千鶴さん揃ったね。

 こんな風に一番早く縦横斜めどれかで5つ繋げて穴をあけた人から勝ちだね。

 これなら不正も見抜けるはずだ。

 一人で何枚持ってもいいが、在庫があるのは1500枚ほどだから、当日いくつ配るのかは考えないといけないね。

 で、商品はあたしが提供したモノや価値あるものだといいね。

 権平さん達みたいに価値を見抜いてくれる人は

 応募券を買い取ったりしてくれるだろうから山間部にも金が回るはず。

 まぁ、商品について具体的にはおいおい考えようか。」


歴史上初のビンゴゲームになるのだろうか。



【坂本権平】

…っ。

乙女より先に4つ揃っておったのだが、5つ揃ったのは乙女が先であった。

しかし、これは面白いの。

人を惹きつける。


その分、平時に富くじのように射幸心を煽り過ぎることになってはならんが、

今回ばかりは必要であるな。


しかし、乙女殿がだいぶ商品を提供してくれるとのこと。

事前の広報費として多少値を叩かれてもよいという。


これは家に戻ってすぐに動かねばな。



【坂本龍馬】

いやぁー、『びんごげーむ』なるものは楽しかった!

ただ、使こうとる数字が外国のモノじゃき、

別途紙かなんかに書いてみせんと分からんの。


しかも姉貴が色々と商品を提供してくれるっちゅう話じゃ。

これは儲かるにおいがプンプンするのぉ!

兄上に相談して、この波に乗らねば!

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