第25話 再確認

<1854年12月3日 夕刻>

【根本うい】

全て話した…、はず。

薫さんが涙を浮かべて抱きしめてくれる。

真琴ちゃんは悩まし気に、眉間にしわを寄せている。


「そうですか…、やはり地揺れは起こるのですね…。」


福田八之助さんが呟く。

真琴ちゃんも警鐘を鳴らしてたみたいだけど、

私があの地震の後に気付いたのは次の地震。


神様が言うところの地震、

『安政の大地震』は伊賀上野だけじゃないってこと。

次は『地震』だ。

被災者を減らすのがおねぇちゃんの寿命を延ばすことなら、

前回しくじった分をここで取り戻す!


「真琴ちゃん、私の携帯はもう充電がないんです。

 指示をお願いできないかなっ?」



【磯貝真琴】

ういちゃんの話に、皆が騒然とする。

『地揺れ』はあるのだと。

確かめるように八之助さんが呟いた。


これまでは、日程が示されても1か月以上あったために、

漠然とした対処でしかなかったものが、一気に現実味を帯びた。

私も信じたくなかったが

証人が増えた以上、一気に現実味を帯びる。

何ができるかっ…。



<1854年12月3日 夜半>

【根本うい】

「…、ありがとうございます。」

道場の主である、溝口薫さんがお茶を入れてくれる。


私は薫さんに、真琴ちゃんは福田さんと言う男性に、

それぞれ別で色々聞き取りをされた。


一時して、磯さん、もとい先生が、

お弟子さん二人と別室から戻ってきた。


「うい殿と、真琴殿の証言、一致いたしましたな。

 『妄言』…、とは言えんくなりました。

 克之助、ちと走ってくれんか?」

「はっ。」

一番若いお弟子さんが、

先生の書状を受け取りどこかに向かって部屋を出ていく。



「さて、二人そろったところで、

 改めて話を伺いましょう。」


真琴さんと一緒に、自分たちの使命を告げる。

そして、前の地震でとった対策、

そして、これからの日本の近代史を告げていく。


「…、これをそのまま報告するのは…。

 『幕府に対し、謀反の意志あり』と捉えられかねません。」

「が、伝えねば無辜の民が苦しむことも然り。」

先生と八之助さんが悩む。


まずはみんなの命、おねぇちゃんの命だ!

「まずは助けられる命!

 今から約3週間後です!

 江戸までお伺い立ててたら、対策もできません!

 まずはこれまでみたいに、できることをしませんか!?」


「まぁ、確かに。」

「これまでも十分やっとるから、これ以上となるとのぉ…。」

八之助さん、先生がそれぞれに答えてくれる。


「津波が一番怖いんだ!

 先生、薫さん、沿岸地域に影響力がある人ってだれっ!?」

とはいえ、真琴さんは乗り気でいてくれる。


「もうっ!先生、これを見て!」

真琴さんがiPod touch?でどこかの津波の動画を流す。

よくそんな映像を持ち歩こうと思ったよね。


「いろいろ言いたいことはあるが、真琴殿が言いたいことはわかった。

 津波がこれほど恐ろしいとは、想像以上じゃった。

 この辺は幕府の直轄地みたいなものですから、

 私の方から声をかけましょう。」

先生が答えてくれる。

先生ってすごい人?


前回とは違うんだ!!

前回の対策も含めて、どんどん織り込んでもらう。




<1854年12月10日>

【磯貝真琴】

ういちゃんに色々教えてもらいながら、

一週間人里離れたところで能力を確認して、だいぶ分かった。

2週間もかけたういちゃんの執念がわかる。

とはいえ、私と少し違うところがある。


【家】

・そもそもない。代わりに愛機が家なのか。

 ・加護として『メンテナンス』がある。

・機体に弾痕が付いたことから、機体に危害を加えることは可能。


【購入】

・買えるものが『惣菜』ではなく『畳、道着』。

・家でしか『購入』ができないため、ういちゃんは現在、『購入』ができない。


【売却】

・売れるのは『書物』のみ。

・私が現れた日付から、ういちゃんの方にも『市場移動』が表示された。


【収納】

・ういちゃんとの相違点は、

 ・体積単位ではなく、質量単位。

 ・一回に収納できるのは、6000t(6G)

 ・1M=1t

 ・1G=1000M


ういちゃんが家に加護があると聞いて、

機体に発砲しても大丈夫だろうと銃を撃ったら、弾痕が付いた時は焦った…。

小説の様に無双できるわけではなさそうね。


その他にも容量が違っていたり、解明できないことがいっぱいだった。



先生たちはここ数日、周辺の道場以外に行っているらしい。

克之助くんが

『こういう時に動かぬ役人なんぞ、役に立たん!』とか、

『わからずやめっ!』とか、

喚いてるから、先生が言ったお役人さんのところに行ってるみたいだけど…。

状況は芳しくなさそうだね。



<1854年12月15日>

【根本うい】

先生からもらったお金で、いくつか古本を買うことができた。


後世に「た格好」なんて造語を作らせないために、

薫さんから着物をかりて街に繰り出している。

そろそろ着付けもいっちょ前にできるようになったし、

現代なら着付け教室でも開けるんじゃないだろうか?


閑話休題。

現在、『購入』も『売却』もできないんだけど、

前回の地震対策で減った残金の補充のため、

『売却を試してみよう』と真琴ちゃんが提案してくれた。


という目的のためとはいえ!

古本!作家お父さんの影響で、

書斎からいろんな本を借りてきては読んできた私にとって、

これから起きるであろう地震や戦争で失われたものが現存するなんて夢みたい!



いただいたお金の代わりに私から先生に渡せるものがなくって心苦しかったんだけど、

真琴ちゃんが代わりに色々渡してくれてた。


丈夫な道着、衝撃を吸収する畳など…。


真っ白で頑丈な道着を一人3着貰って、

『こりゃ釣り合いませんな!』といって先生はお金を追加で出してくれた。


畳は持って帰れないって嘆いてたけど、

薫さんの溝口道場に敷き詰めて、克之助くんをポンポン投げて楽しんでた。

先生の道場に行くことがあれば、改めてプレゼントするって真琴ちゃんが言ってた。


真琴ちゃん曰く、

『道着は組手でちょっとスメルが酷かったから、いつか渡すつもりだった』

『板間に投げられると痛かったから、畳も出すつもりだった』

って。


私がお金のことを気にすると、

「『収納』について教えてくれた授業料だよ」

「もともと貯蓄家で、気にならないほどの残金がある」

ってさ。惚れちゃいそう。


興味本位で職業を聞いたら自衛隊のパイロットだって!

ん???

見た目的な年齢は女子高生なのに???

「本当の年齢は…」

と口にしかけた瞬間、真琴ちゃんがにじり寄って告げる。


「いいっ?

 、今のういちゃんよりは年上しれないけど、

 だっていう言こと、

 同じ女の子のういちゃんならわかるよね?

 ねっ!?」

え、笑顔だけど、あ、圧が…


「は、はひっ…。」

これは地雷だ。

踏み抜いたら無事じゃいられないヤツ…。

『触らぬ神に祟りなし』っと!

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