第24話 邂逅
<1854年12月2日>
【根本うい】
『大きな異形の鳥が舞い降りた』
『異形の鳥より出てきたのは妙な装いの女子だった』
『変な装いで鳥の周りを歩いていたかと思えば、異形の鳥がはたと消えた』
そんな噂を耳にして、近辺を探索していた。
噂によると、彼女は最初、草木に溶け込む装いをしていたらしい。
それは藪に一体化するような。
ピンときた。
『迷彩服』だ。
現代では何度か流行った柄だけど、この時代にはないはず。
けど、足取りは一旦そこで途絶える。
延長線上の街をいくつか回ってきた。
すると、武道、というか、ケガの対処法を教えている女性が現れたらしい。
しかもそれは、これまで聞いたことがない方法で。
それに、武道が非常に強いとのこと。
噂の女性っ!?
けど、私と同じ現代から来た人かはわからない。
伊賀での失態は犯したくない。
また裏切られるのは勘弁だ。
遠目から、双眼鏡を『取出し』て確認する。
「うわぁ~、すっごい…。
男の人を『ちぎっては投げる』って、ああいうことを言うんだね…。」
圧倒的。
声は聞こえなくとも、かかりくる男性を『体に言って聞かせる』とはあの事だろう。
道着の中に見えるTシャツというか、キャミソールは現代のものに違いない。
『次の地震はすぐそこっ。
前回みたいに悠長なことはできない!』
そう自分に言い聞かせ、かの女性に声をかけることを決める。
建物の間を縫い、意を決して声を上げる。
女性が目に入る。
「へ、平成っ!?」
考えなし。
共通で繋がる単語が思い浮かばず、ついつい出てきた単語。
どう応えてくるか?
「…、昭和?」
!!
この人は未来を知っている!
感極まって女性に駆け寄っていく。
<1854年12月2日 夜>
【磯貝真琴】
「…、というわけで、私も混乱してまして…。
ただ、彼女の発した言葉、その姿から、
こちら側の人間だと思います。」
『平成』と叫んでこっちに来た女の子は、
私の胸に飛び込んで号泣した後、眠りについてしまった。
自分もわからないまま、先生をはじめ、薫さんにも事情を説明する。
煤けてはいるものの、着ているものは現代のものだが…。
「ふぅむ。
まぁ、この女子が目を覚ますのを待つほかあるまい。
八之助、克之助、交代で彼女の周りを守っておけ。
わしも控えておくようにするが、
真琴殿に少し話を聞かねばなるまい。」
「「はっ。」」
部屋を変え、場を改める。
「して真琴殿、そなたが そちら側と判断した理由を聞かせてもらえぬか?」
「はい。まずはあの服装。
私たちの時代のものに違いないです。
そして、今の元号は嘉永と聞いています。
しかし、私たちのいた時代は令和。
その前が平成です。」
「その平成を彼女が口にしたことが決め手ですかな?」
「いえ、それだけじゃありません。
私が咄嗟に、昭和と応えてしまったんですけど、
それは平成の一つ前の元号。
それに彼女が反応したんです。
これら一連の流れは誰にも言っていません。
ですので、こちら側と判断しました。」
「ふむ、それならば道理が通る。
彼女が目覚めたら、少し話をする必要がありますな。
真琴殿、お任せしても?」
「はいっ。」
<1854年12月3日 朝>
【根本うい】
良く寝た気がする…。
知らない天井だ…。
…、そうじゃないっ!
がばっと起き上がる。
「良く寝てたね?
体調はどう?」
記憶の最後にある女性が問いかける。
えぇっと…。
「私になんか言いかけてから、気を失うように寝ちゃったんだよ。
覚えてない?」
あぁ、そうだ、この人がこっち側の人だと目星をつけて声をかけたんだった。
「平成っ!?」
「…、昭和っ。昨日もしたでしょ?」
やっと、やっと見つけた!
【磯貝真琴】
また泣いちゃった…。
少なくとも、『昭和』『平成』を知っていることは間違いなさそう。
まずは話ができるようなだめないと。
【根本うい】
これまでのことを全部話した。
放浪したこの数ヶ月や、
頑張ったけど、力足らずだった地震のことも…。
真琴ちゃんは『そんなことない』って、慰めてくれたけど、
この放浪生活で心が弱っていたみたい。
大泣きしてしまった。
【磯貝真琴】
まったく、こんな若い子に責任おっかぶせるなんて、神様もどうかしてる。
成人、つまりは今の私からしたら年上だろうけど、
女の子に負わせる
まぁ、私も若いんだよ?
ましてや右も左も分からない時代に放り出され、
その時代が男尊女卑どころか維新の真っただ中だなんて、
酷いにも程がある。
私のように神様から力を与えられたんだろうけど、
弱肉強食のこの時代に、伊賀上野地震から3か月以上、良く生きてこられた。
私の使命にもかかわるかもしれない。
注意深く聞かないと。
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