第23話 力添え
<1854年11月13日 夜半>
【磯貝真琴】
流石、武道の達人。
私の隠し事はお見通しのようで…。
道場であらたまる。
「そう構えなさんな。
無理に聞こうとは思いませぬが、
何か助けを欲しているのではありませぬか?」
先生、そこまでわかります?
武人・達人ってすごいんだね…。
「信じれないでしょうが、私には神様からの使命があるみたいなんです…。」
いたたまれず、口を開く。
スマホは唯一の存在。
この時点ではまだ伝えられないけど、
タイムスリップの経緯、
これから起こるであろう地震、
その後の世界大戦に巻き込まれる日本の流れについて伝える。
近接戦闘が役に立たないほどの銃の普及と大規模な戦闘。
さらは無差別殺戮兵器である毒ガスの存在を示唆すると、
言葉がなくなってしまった。
そこまで行くと近接戦闘とかいうレベルではない。
銃を持っていても個人では戦いにならない時代がすぐそこにあると聞いて、
3人とも言葉を失ったようだ。
「し、しかし、まだそんなことが起こるとはっ!」
否定したい気持ちの克之助くんが声を上げる。
「これでも?」
目の前の冷めた鍋に触れ、『収納』する。
「なんと!」
「これはっ!」
先生と八之助さんが声を上げ、克之助くんが黙る。
「今言ったのはほんのさわり。
まだまだ先の時代から私は来ました。」
長い沈黙の時間が訪れる。
「わかりました。私たちに何ができますか?」
奥から薫さんが出てくる。
寝てたんじゃ?
ってか、こういう時に、『女は肝が据わってる』んだね。
「死者、というか被災者を減らしたいんです。
協力いただけませんか?」
皆がこちらを向いて頷いてくれた。
<1854年11月13日 朝>
「この辺で繋がりのある道場への書状です。
お手数ですが、お届けを。」
「わかりました!力ずくでも!」
「克之助っ!『友好的に』だぞっ!」
「わかっております!」
早朝から八之助さんと克之助は遠方から順に情報を伝えてくれるみたい。
先生の一筆は私が想像する以上の効果があるようだ。
「せめて食料を集めておかねばなりませんな…。
彼らにも協力をお願いしましょう。」
昨日の門下生一同に加え、うわさを聞き付けた少年たちが集まっている。
市が開かれる日ではないが、食料を集めに行く。
「まぁ、その分、稽古をつけてあげませんとな。」
<1854年11月19日 夕方>
「先生っ!大部分の道場が耳を傾けてくださいました!」
「こちらも同じく!聞いてもらえぬところは力でねじ伏せましたっ!」
「松之助っ!」
おぉっ…、半ば強制的とはいえ、話を聞いてくれる人がこんなにいるとは。
克之助さんがどういう交渉をしたかは置いておいて、かなり頼りになる。
「真琴殿、どうなさいます?」
先生が問うてくるけど、分かってるでしょ?
「怪我などの処置ができるよう、皆さんを集めて!
講習会を開きます!」
応急処置だけでも救える命があるはず!
<1854年11月26日>
応急処置の講習会をする。
三角巾、添え木だけでもいい。
できるなら心臓マッサージも。
道場主に派遣されただけの分からずやも中にはいる。
他にも、指導が女の私だと聞いて明らかに不貞腐れる奴も。
そんな奴らに構ってる時間はない。
さっさと投げて、締め落とす。
女だと舐めるから痛い目に見るんだ。
遅れてきた人への指導は、八之助さんがやってくれる。
並行して、先生が代表の皆さんへ、ことの経緯を説明してくれている。
ほとんどの人は信じられないと言っていたけど、そりゃそうだ。
『備えをするのは悪くないはず。
医術の共有は平時でも役に立つ。
出費もないのだからいいではないか。』
と議論でも一本を取っていく先生は頼もしい。
こんなことでいい。
こんなことでも救える命はあるのだから。
その後、数日にわたって講習会を開き続けた。
<1854年12月2日 昼>
だいぶ講習会は身についてきてくれた。
もともと接骨院や整復術などとつながりが深いんだ。
外傷については呑み込みが早い。
ん?
向こうに見えるのは…?
この時代に違和感がぬぐえない。
煤けているが、あの格好は現代のものだ!
「『平成』?」
彼女が呟く。
「昭和???」
つい、反射的に呟いてしまう。
こっちを見て走ってくる。
「いたぁ~~~~~っ!!!!」
<1854年12月2日 夕方>
叫んでこっちに来た女の子は、
私の胸に飛び込んで号泣した後、眠りについてしまった。
現代の生地に、パンツ姿の女の子。
この時代の着物姿とは明らかに異なる。
この子はいったい…。
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