第17話 新居関

<1854年11月11日 夕方>

【磯貝真琴】

夕方、関所に着く。

新居関というところらしい。

なんか聞き覚えがあるけど、訓練で忙しかったせいで、

基地周辺の探索は疎かだったと反省する。



道中、『先生』こと磯正智さんが女性用の服を買い上げてくれた。

お弟子さんの福田八之助さんのであろう小袖は、

スメルが酷かったので本当に助かった。


関所は一行の側女として扱ってもらうことで、

通行の許可をもらえた。

『出女』といって、江戸から地方へ下る女性には厳しい反面、

関東方面に進むことには、ある程度寛容なそうだ。


ただ、鉄砲の持ち込みは厳しい審議があるそうで…。

それを聞いて咄嗟に腰の拳銃を収納して難を逃れた。



そうそう、黄門様ご一行ならぬ、『磯正智さんご一行』と道中話ができた。


『先生』、もとい『磯正智』さんは、

江戸で柔道を教えている偉い人だそうで、

弟子の二人の武者修行についてきてくれているそうだ。

こっそり先生が教えてくれたが、二人とも筋がよく勤勉なため、

この武者修行が終わったら免許皆伝も考えているという。


そして、兄弟子の『福田八之助』さん。

お百姓さん出身なんだけど、センスは抜群、

小さいころから練習を続け、その真面目さもあいまって、

今回の武者修行に連れてきたそう。

少し寡黙で、内向的だけど、弟弟子をしっかり見てくれる人。


最後に、弟弟子の『松岡 克之助』さん。

私との出会い頭に手を伸ばして、のせられた

16になった私が言うのもなんだけど、18歳なんだって。

まだまだ血気盛んな様子で、

私の身体検査をするときに『何かあったら引き倒そう。』

って考えていたらしく、私が反応したみたい。

謝ってくれたので、お互い水に流した。


…。

なに?

私?


いい?

私の前世の年齢は気にしないこと。


ね?

わかった?




なんか天に向かって言わなきゃいけないという衝動が通り過ぎて、

宿屋で食事をとりながら人心地着く。


「克之助からとったあの技、真に美しかった。」

ふと八之助さんが呟く。

とはいえ、現代柔道では当たり前の一本背負いなんだけど…。


「戦場では地面に伏しただけでは勝敗は着きもうさん!

 次があるなら勝ちまするっ!」

克之助君、そこはまだ飲み込めていないのね。

まぁ、言ってることは最もだけど…。

あれは後があるんだよ…。

武術としての柔道の。


「やめなさい。

 真琴殿はあの後を留めてるようでした。

 ね?」

先生には読まれてたか。

現代格闘技としての柔術も修めている以上、

もういっこ先、つまりは落とせるとこまでは見えている。


「そもそも戦場では『次』はなかろう?

 その結果を受け入れよ。」

「…、はっ…。」

八之助さんにも窘められてやっとその思いを納めようとしている様子。


まだまだだよねー。

負けから学ばなきゃ、次はない。

それが武道なんだから。

まぁ、16歳のピチピチで、年下の女の私に負けたんじゃぁ、

素直になれないよね。

でも、実は柔道歴〇〇ゲフンゲフン年の私には、足元も及ばないよ!



「~っ!」

克之助さんが席を立つ。


「おい!落ち着かぬか!」

「いいえ!落ち着いております!

 ただの小用にございます!」


まぁ、受け入れがたいよね。

この時代では、成人(=元服)なんだろうけど、

ここまで理詰めで言われてしまうと受け入れにくいのだろう。



「とはいえ真琴殿、

 明日はどの道場に向かうか、目星はついておりますかな?」

先生が場を取り直して、こちらに話しかける。

そんなものはないわけで、返答に詰まる。


「ならば一緒に参りましょうか。

 楽しい一日になりそうです。」

なんか、すごく楽しそうに話しているけど、

先生のそのにやけた顔、

後ろで怯えるような苦笑いをする千代吉さんもあいまって

とっても怖いです。


きっと締まりが悪いであろう克之助さんは放っておいて、

さっさと寝よう。


久しぶりの屋根のある部屋だ。

わざわざ私の部屋を別にしてくれたんだから、

しっかり休まないと罰が当たる.

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