第16話 巡合い

<1854年11月11日>

【磯貝真琴】

あの出来事から一週間が経った。

その間に、色々と能力のことについて調べていた。


「購入できるのが、道着と畳って!

 震災に何の役に立つのよっ!」

能力のうちの一つ、『購入』で、

学生時代から続けていた柔道の道着と、畳が購入できることが分かった。

が、震災にどう役立てたらいいのかさっぱり見当がつかない。



そして、そろそろちゃんとした屋根のある所で寝たい。


「スマホの電波どころかGPSまで繋がってるんだよね…。」

最後の記憶が確かなら、愛知県側に入ってしまったはずで、

スマホのGPSを確認しても、墜落したところの周辺であることは確認できた。


「空自の訓練生として所属してたこともある浜松基地周辺なら、

 多少土地勘があるし、まずはあの辺まで行ってみようか。」

ここから東にあるであろう浜松基地を目指して進むことを決める。



草木を分け入って進む。

道らしきものも途中にあったが、

この自衛隊の迷彩服では通行人を驚かせてしまうと考え、

すこし脇にそれた場所を進んでいた。


手持ちに着物がないわけではないが、

母からもらった『嫁入り用』の振袖と白無垢だけ。

逆に目立つだけでなく、自分で着付けもできないし、

若くなったとは言え、『まだ結婚しないの?』圧のトラウマが蘇り、

着ようとする考えを放棄していた。



「なにをしておるっ!」

!?

街道(?)からこっちに向かって話しかけてる??

こちとら迷彩服で藪の中にいるわけなんだけど…。

腰の拳銃に手を伸ばす。


「出てまいれ!」

あ、やっぱり私のことみたいだね。

襲ってくる様子はないし、

他に通行人はいないみたいだし、

ここは出ていこう。



「害意はありません。

 この格好なので目立つと思い、藪の中を進んでいただけなんです。」

両手を上げて出ていく。


女子おなごかっ!」

「なんだ、その恰好は…。」

まぁ、そういう反応になるよね。


「改めさせてもらう。」

腰の携行品に若い男が手を伸ばす。


「うぉっ!」

反射的に手を取り、一本背負いしてしまった。

…普通科ならこういうシチュエーションの訓練もしてるんだろうけど、

レディに手を出すのは頂けない。


「なにをするっ!」

「いえ、なんか悪寒を感じたというか…?

 条件反射でっ!?」

きれいに地面に伏した先ほどの男性の腕を抑えつつ応答する。

こちとら空自から移動したてで、パイロット一筋だから…、

長年の刷り込みで反応してしまった。

けど、普通はそんなことないんだけど…?

なんか企みを感じたんだよね。



「まぁまぁ、あまり女性に手荒な真似をするもんじゃなかろう。

 状況は理解したが、なにゆえかようなことをしておったのかね?」

なんか、『先生っ』て言いたくなるような中年の男性が前に出てきた。

纏う空気が少し違う。

変なことは言えなさそう…。

けど、どこまで話したらいいものか…?


「私は武道を少し嗜んでいまして、

 この先の街でいくつか道場を伺おうかとしていたのです。

 武道を嗜む女など珍しく、今回のように往来にも窮することもあって、

 目立ちにくい装束を着ていた次第です。」

まぁ、嘘じゃない。

ちょっと捻じ曲げてる部分はあるけど。

今の一本背負いのおかげで信じてくれるといいんだけど。


「ほう?

 我々もこの先で道場へ行くところです。

 その様子だと、関所破りでもされるおつもりだったのかな?

 止めておきなされ。

 我々が何とか致します。

 小袖を貸してあげますので被るといい。」

少し目が輝いた気が?

一気にまくし立てられ、あれよあれよという間に一行に加わることになった。

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