第18話 交流戦
<1854年11月12日>
【磯貝真琴】
よく眠れた。
現代のベッドに比べれば落ちるかもしれないけど、
屋根があって、シフトを気にしないで眠れる環境は久しぶりだ。
自分で着付けができないので、宿の女中さんにお願いして着付ける。
『着物』って聞くと艶やかなものばかり想像するけど、
日常着ている服というなら、こんなもんだろう。
もちろん、下着はつけているが、
和装では現代でもブラジャーは付けないようだから、外している。
代わりに下着がいらないキャミソールを着ているのは目を瞑ってほしい。
流石に恥ずかしいじゃない?
女中さんは珍しがっていたけど、体系維持には大事なのよ?
余裕ができたら流行らせないとね。
「お待たせしました。」
支度を整え、先生たちと合流する。
慣れない和装と草履に四苦八苦する。
「大丈夫ですよ。今からでも昼前には着きますから。」
はて、そんなに近いのか?
「このような衣装には慣れておりませんので、足を引っ張るかもしれませんが、
よろしくお願いします。」
お弟子さん二人に先に断っておく。
鍛えている方だとは言え、和装での訓練なんてしたことないからね。
<昼前>
「頼もうっ!!」
門の前で克之助くんが大きな声を張り上げる。
えっ!?
道場破りってフィクションなんじゃ???
「どちらさまで?」
少し若い女性が出てきた。
まぁ、私も若いんだけどね!
「天神真楊流 宗家三代目 磯正智が弟子、松岡克之助にございます!
お手合わせ願いたく参上いたしました!
主はいらっしゃいますか!?」
「おります。
お手合わせについては師範代に確認してまいりますので、
少々お待ちいただけますか?」
「かたじけない!」
どうやら、道場破りというより、他流は試合の申し込みみたいだね。
一時して先ほどの女性が現れた。
「どうぞこちらへ。」
道場に案内してくれるようだ。
「まずは、あなた様方のお力を試させてください。
門下生の茂太、寅次郎、治五郎、作次郎です。」
小柄から大柄、年齢も若い子から青年まで。
ん~、鍛えてはいるんだろうけど、
その所作一つ一つを見ると大した事なさそうに見える。
元気だけど、意気込みが空回っているのかな?
それは置いておいて…。
板間かぁっ…。
屋外よりはましかもしれないけど、
現代は畳を敷いているから衝撃吸収性がいいんだよね。
投げられたら痛そう…。
克之助くんを地面に叩きつけておいて何を言うって感じだけど。
審判はいないのかな?
他流派だとルールが違うとか?
やっぱり、この時代『参った』までなのか?
先鋒は茂太くん。
小学生高学年ぐらい?まだ成長期で背は伸びる途中かな?
克之助くんが出ていき、先生が始めの合図をする。
案の定、克之助くんの大外で一本かな?
作次郎くんとは、内股で、
治五郎くんとは、大内刈りをすかされた後の変形の三角締めで、
それぞれ一本を取った様だ。
寅次郎君は、一本背負いがすっぽ抜けて肩が外れちゃったようで、
克之助くんが必死に整復してたんだけど、
もたもたしていたのでじれったくなり、私がガボッと嵌めてやった。
なんだか先生がニヤニヤしてる。
克之助くんが勝ったから…、じゃなさそうね。
「処置、ありがとうございました。
また、あなた方の力量はわかりました。
お相手させていただきます。
そこのあなたでよいですか?
準備をお願いします。
あぁ、さらしなら私のがありますのでお貸ししますよ?
どうぞこちらでお着替えを。」
んんっ!?
私を指したっ!?
「さらしが必要」って、明らかに女の私だよねっ!?
横にいる先生をのぞいてみると、ニヤニヤしながら、
「お待たせしてはいけませんよ。」
と満面の笑みで返してくる。
狙ってたのはこれか!
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