第14話 飲込む

<1854年11月4日>

【磯貝真琴】

「っててて…。」

操縦席に俯いて、気を失っていたようだ。


「あそこからよく着陸できたもんね…。

 そもそもなんで雷に…、雲もなかったのに…。」



機内を見渡すと、搭乗員クルーが見つからない。

「山本!大西!栗林!」


機外にでてみる。

「山本!大西!栗林!」

やはり応答はない。



一方で色々な違和感に気づく。


まず、墜落前の景色と全く違う。

この辺は広い農地と工場、それに住宅地などと開拓されていたのに、

ここは野原だ。

正確に言うと野原ではなく、いびつな形の畑が並んでいる。


そして着陸した場所。

最後に記憶にあったアスファルトの高架橋ではなく土の道。



『水・食料の確保にでも行ったのか?』

そう思いつつ、気持ちを切り替えて、機体を点検する。


雷の外傷は見受けらず、せめてあるはずの焦げた跡すらない。


改めて引いて見てみる。


固定翼モードで着陸したはずなのにローターは脱落せず、

機体はいつも基地で見る、正常な駐機モードでたたずんでいる。



『もしかして』

操縦席に戻ってステータスチェックをする。

機器は正常、オールグリーンを返す。


試しに始動してみる。

うごいたっ!

「一体あれは何だったの…?」



そう呟いた時だった。

「磯貝真琴。」

操縦席のディスプレイに人影が写り、スピーカーから声がする。


「墜落するとは情けない。」

「あんたの仕業かっ!」

ディスプレイにヘルメットを投げるわけにもいかず、

こぶしを握り締めて声を上げる。


「ごめんごめん。冗談はさておき、

 あなたが来たのは1854、つまり711月4日よ。

 これから地震が起きるの。歴史に残る大地震。

 現世で活動できない私に代わって、民を救って欲しいの。」


「はぁっ…?私は南海地震の支援に…。

 って、嘉永??今は令和じゃぁ…。」

『嘉永』なんて聞いたことあるような、ないような…。


「幕末の年号のことよ。

 詳しいことはネットで調べて。

 それから、助けられるだけの力は授けます。

 『収納』よ。

 あなたたちの世界ではやってる異世界転生で言うところの、

 『ストレージ』に近いかしら?。」


「いやいやいや。

 そもそもネットがない時代じゃ検索できないんじゃ…。

 それに現代であれだけ被害が出てるのに、それだけではさすがに…。」


「わかっています。

 ネットや通信は使えるようにしておきます。

その他の力はあなたのスマホに表示するようにしておきます。」


「任務時にはスマホ持てないんですよ?

 今から木更津まで戻れとっ?」


「落ち着いてください。

 あなたの『収納』の中に、あなたの所持品を入れています。

 あなたの大好きな姪っ子ちゃん達の写真もね♪

 対象をイメージして『取出し』って念じれば出てくるわ。」


「は、はいっ?」

理解はしきれてないが、とりあえず返事をしておく。


「入ってるものの一覧は、スマホで見れるようにしてあるから。

 あぁ、そういえば。

 あなたの寿命は姪っ子ちゃんにリンクしてます。

 姪っ子ちゃんの寿命分、あなたはは長生きできるんですけど、

 逆にあなたが死ねば道連れとなっちゃいます。

 これは、あなたが絶望して自殺したりしないための措置よ。」


「なんでそんなことをっ!!」


「でもね、あなたが一人救うごとに、

 姪っ子ちゃんの寿命が1日伸びるから、頑張ってね?」


「ちょっとっ!!」

消えゆくその姿に必死で声をかけるが、画面は砂嵐になった後にプツンと消えた。




一瞬呆然としてしまったものの、

手元のバインダーに、一連のやり取りをまずは走り書きする。



「『通信はできるようにしておく』って言ってたならっ!」

ヘッドセットをつけ、周波数を合わせる。


「mayday, mayday, mayday!

 Hamamatsu tower!

 This is Venus5!This is Venus5!

 エマージェンシー!

 応答願います!」


・・・応答がない。

複数回繰り返すも、

チャンネルを緊急用周波数に変えても、

付近のいくつかの空港にも問いかけてみるが、

応答が返ってくることはなかった。



「・・・。

 切り替えるか。」


とりあえず操縦席に座り込み、

トランスポンダーに緊急用コードをセットして応答を待つ間、

先のやりとりを思い出す。


神様?が言ったとおりに、スマホを『取出し』するイメージをする。

手の平にスマホが現れる。


「これは…。小説みたい…。」

スマホを操作すると、新しいアイコンが二つあるのに気づき、

まずは『ステータス』をタップしてみる。

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