第2章 立て続け

第2-1節 東海

第13話 不時着

2024年4月10日。

恐れていた南海地震が発生。

高知、和歌山を中心に東海各県で津波が襲う。

各知事をはじめ、政府が緊急災害対策本部を設置。

自衛隊にも災害派遣要請が下った。




【磯貝真琴】

<2024年4月11日>

津波の映像は衝撃的だった。

平野部が広がる高知ではその被害のに、

リアス式海岸が広がる和歌山ではその被害のに、

息をのんでしまった。


もちろん、その他の県でも甚大な被害には変わらない。

そこで、私たちの出番だ。



そんな私は元空自で、現陸自。

こんなキャリアを持つようになったのは理由がある。


もともとは空自の珍しい女性F-2パイロットだったけど、

・自分の体力の低下で輸送任務への転属希望した

・女性初の戦闘機パイロット

・九州にオスプレイを配備をしたい防衛省の思惑

それらに合致する九州出身の女性パイロット。

ということで白羽の矢が立ち、オスプレイの機長をしている。


かなりごり押しだったのは、自分がよくわかってる。

だから副機長は陸自の腕利き元ヘリパイロット。


まぁ、それを含めても今の乗員クルーはわかってくれる気のいい奴ら。



「急いで!けど、固定はしっかり!

 現着までに墜落したら話にならないんだから!」


「うちの隊が役に立てる日が来るのは、光栄なのか悲しいことなのか…」

副機長が隣で独り言ちっている。

マスコット部隊としてみられていたんだから、思うところはあるのだろう。


私たちに課せられたのは、災害援助物資の輸送任務。

規模が広すぎて陸自のヘリはもとより、

海自のヘリを追加してでも追いつかず、

空自の空中投下よりはマシだとうちにおはこが回ってきたけど…。

もっとも、その空中投下も準備してるぐらいだから、

改造とその評価が中心での私達にもお役目が回ってきたわけ。

こんな時に変な政治力争いなんて関係ないからね!



食料や水、毛布などの援助物資を満載して木更津を離陸。

高知方面を目指すため、空中給油を受けて御前崎を脇目に飛行する。


「機長、思ってたよりだいぶ悲惨かもしれませんね…」

「そうね。。。しっかり任務をこなすわよ!」


震源地から離れているはずの遠州灘付近に入ると、

上空でも視認できるほどの被害が見受けられる。

さらに現地に近づくにつれ、凄惨さを増す。



浜名湖付近に近づいたころ、突然警報が鳴り響く。

『ーッ!--ッ!』


「リポート!」


「機長!両エンジン停止!

 電子機器類全てダウン!

 警報止まりません!!」


「アナログ計器は!?」


「多分問題なし!」


「多分って!操縦系統はっ!?」


「操縦は可能っ!

 両エンジン停止の為、飛行モードの切り替えは不可!

 エンジンナセルは水平で固定!固定翼モードでの滑空になります!

 機長はっ!?」


「同じくっ!

 私は取り合えず姿勢制御に重点を置く!

 固定翼モードなら私の方が得意でしょっ!?

 管制塔に連絡を!

 それから着陸できそうな場所を探して!」


「荷物の投棄はっ!?」


「待って!固定を外してバランスが崩れるのが怖い!」


「方位0-3-0、すぐそこに浜松基地!

 目視の限り着陸できそうですが、旋回・降下が必要です!

 また、基地付近、ルートの途中に発達中の小さな積乱雲あり!

 ダウンバーストの可能性もっ!

 それに市街地に近すぎますっ!」


「っ!

 23号線の少し内陸に入ったとこはっ!?

 潮見バイパス抜けた名豊道路!」


「ここからだと方位3-0-0!

 一般車両は通行止めになってるはずです!

 ですが、あそこは1車線ですよ!?

 それに周囲の民家はっ!?」


「あの辺は農地が多いし、津波で避難してるはずよっ!

 民家に突っ込むよりは機体の破損程度は許容してもらう!

 バイパスでフェンスあるんだし、最悪民家に被害はないはずっ!

 路肩を含めればギリギリ行けるっ!

 次点で1号線!1号線なら2車線ある!理想的だけど、今の通行量次第ね!

 分岐箇所が目視できたら判断しよう!」


「海岸ではダメですか!?」


「死にたいっ!?

 平時なら最初に挙がるけど、波に隠れてたり、岸からさらってくる大きな漂流物が多数ある!

 満潮で松林がギリギリ迫る海岸線は無理!

 脱落するとはいえ、片翼のローターだけ木に接したら挙動がわからない!

 これだけ不安要素があって、動力をロストしてやり直しができない中でその選択はできない!

 余震も続いていて、下手したら南海地震も起こるかもしれないのに沿岸に着水!?

 どこも機体のやりくりに必死の中、自衛隊が救助される側になって、その途中に津波にさらわれるなんて笑えないでしょ!

 機体は損傷しても、皆や国民の命は守る!」


「っ!」


「ごめん!みんなを降下させてあげられるだけの余裕がない!

 一か八かいくっ!!

 元空自戦闘機パイロットの腕を信じて!

 ギヤダウン!

 着陸態勢!

 総員、耐ショック用意!

 どっちならいけるっ!?」



雷が穿ったのはその時だった。

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