第11話 仕込

〈1954年7月7日〉

【根本うい】

〔甚三郎宅〕

「ういちゃん!」

「おねぇちゃん!」

「うい殿!」

甚三郎さん一家が出迎えてくれる。


「こいつぁどういうつながりで…?」

甚三郎さんが藤堂さんに目をやる。

え?知り合い?


「私から話しましょう。」

甚三郎さんは、庄屋さんに行った後、こっそり藩主様のところに行ったらしい。

だから1日も遅れたと言っていたけど、よく1日で帰ってこれたと感心する。

藩主様は物分かりが良いようで、藤堂さんに準備をさせてから派遣してくれた。


その準備に時間がかかっている間に、

勘違いした庄屋さんが捕らえに来たり、

ちょっとなお坊さんの一団に情報が漏れたりしたらしい。


なお坊さんには、どうやら村の関係者から漏れて、

オヒレハヒレがついてしまったのじゃないかと、

お登勢さんが泣きながら謝ってくれた。

まぁ、お登勢さんに口外しないよう言ってなかったこちらの落ち度もあるし、

おあいこかな?


と、いうことで、甚三郎さん一家も一緒に庄屋さんのところへ行くことに。

近所の皆さんに地震のことをよく聞かせ、

・高いところにモノを置かない

・予想される時間には広いところに避難する

・大事なものは家が崩れても見つけやすい場所に隠しておく

などを伝えて、数日分の食料を渡して出ていく。

二晩も食べ放題パーティーをしたんだから、事前に食べきったりはしないだろう。



〔庄屋 屋敷〕

「ただいま戻りました!」


「ういちゃん!」

「と、藤堂様っ!!うい殿、これはっ!?」


「私から説明します」

藤堂さんが2度目の説明をしてくれる。

甚三郎さんは、勝手に藩主様のところに行ったのを謝っている。

ただ、なお坊さんの一団は、どうやら修さん方からの情報漏洩らしい。

お寺に協力を求めに行ったときに近くにいた一団が、

使者と和尚さんの会話に聴き耳をそばだてていたようで、

『世迷い事を吹聴ふいちょうするとはけしからん!』

と押し問答になったことがあったそう。


私が襲われかけたという話を聞いて、修さんとたかさんが平謝りになった。

まぁ、広めてる話は普通なら私だって信じれない内容だし、

協力を求めに行くのもお願いしたことだし。

修さん達には落ち度がないのだから、

『仕方なかいことだった』と言っておく。


「状況は分かり申した。」


「ういちゃんが無事でなによりです。」

庄屋さんご夫妻が安堵のため息をつくが、

たかさんが甚三郎さんを睨んで、甚三郎さんがスッと目を逸らしていたような?

まぁ、地元の庄屋への詳しい説明もせずに、勝手に藩主のところまで行くっていうのは、現代でも越権行為えっけんこういで怒られるものだ。

たかさん、どんだけ民衆に影響あるんだろ?



「安堵されたはいいが、これからのことを考えませんと。

 先刻の地震もあります。

 ういさんが言われる通りなら、

 もう、刻が迫っておりますので。」


そう、もう丸1日と半分もない。

修さんが町の地図を出し、

藤堂さんが取り仕切る。

はしたないが、夕食を食べながらになる。


「まずは火消し隊には、明後日暁子刻に鐘を鳴らすよう伝え、

 各所に集まるよう指示しました。

 また、備蓄米のある倉庫ですが木造のものにしまってあるものは、

 城の蔵に移して居る最中です。」


「では、私たちが持ってきた食料もそちらに運び込もう。」


「私も後で食料を出します。」

修さん、思ってた以上にやってくれていたようだ。



「ただっ…。」

苦虫をかみつぶしたような顔で修さんが続ける。


「先ほども申しましたが、

 梵鐘はんしょうを鳴らしてもらうため寺を巡っておったのですが、

 そこに流れの虚無僧どもがおりまして、やつらに情報が漏れております。

 頭に血が上りやすいので、気にしておいたほうが良いかと。」

あぁ、あの人たちの詳しい経緯はそういうことか。


「あい分かった。うい殿に危害が無いよう注意いたそう。」



「私から。

 お医者様方には、慰労いろう会と称して明日の夕刻にこちらへ集まっていただき、

 お食事してもらうわ。

 お酒は出せないけど、そのあとどれだけ大変になるかわかりませんから。」

たかさん、抜け目ない。

お医者さんの腹ごしらえまで考えてくれてたんだ。


「わかりました。できれば道具も持ってきていただきたいが…。」


「それなら勉強会の名をつけ、道具を持参いただくようにしておきましょう。

 その慰労会ということで食事をしてもらうことに。

 それならば、時間を早めないといけませんね。

 どうせなら一泊ということにしましょう。」

流石だね。



「あとは配置ですね。

 ういさん、何かご助言はありますか?」

 と言われても…。


 あっ。

「避難や炊き出しができる場所の目星をつけておいた方がいいと思います。

 そこに全ての食材は無理でも、鍋とか調理器具、食器を集められませんか?

 バラバラに非難されるよりも効率的ですから。」


「場所の目星なら俺に任しておきな!

 さっきの地揺れで寝られねぇってやつらもそこに集めておく!」

「あたしも近所から鍋やらなんやら集めてくるよっ!」

甚三郎さん、お登勢さん…。


「よろしくお願いします。他にはないですか?」

藤堂さんが問いかけてくる。


「残念ですが、これ以上は…。

 ただ、被害は最大でこれぐらいになると思います。」

紙に書いた情報を提示する。


「これはっ…。」

「本当にこんなに…?」

「これほどとは…。」

修さん、たかさん、藤堂さんが、

三者三様の反応を見せる。


「これは藩内だけの数字ではないですよね?」


「はい…。ですが、ここが中心地です。

 私の手が届く、助けられる範囲はこの半分にも満たないと思います…。

 とはいえ…。」

自分の無力さを再認識させられる。


「こんなのを抱えてたのね…。

 よく言ってくれました…。」

たかさんが肩を抱いてくれる。

…涙腺が緩んでしまう。


この数字からどれだけ被災者を減らせるのだろうか?

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