第9話 検討

〈1954年7月6日〉

【梅本たか】

「だからっ!あの子は敵なんかじゃないです!周りにいて聞いたでしょっ!」

「いや、しかしだな…」

このわからずやが!


「しかしもかかしもありません!

 あんなに若いのに涙まで流して!

 あなたは鬼ですかっ!」

「いや、その力も悪用すれば…」

この唐変木!


「あんな純粋な瞳を見て、よくそんなことが言えますね!」

「そもそも、先のことなどわか…」

こいつはっ!


「お父様、お父上にお話ししても構いませんのよ!?

 あの子の話じゃ時間が惜しいの!

 知っておいてがあったらどうするの!」

「ぐ、ぐぬぬぅ…。」

もう一押し!


「どうしますのっ!?」

「わかった…、まずは屋敷に迎え入れよう…。」

勝った!


「皆さんいいですね!として迎え入れるのですよ!!

 あぁ、今は寝ているでしょうから、驚かさないよう起きてからね!」

「「はっ!」」



【根本うい】

明け方の書置きに気づいてからしばらくすると、刀も槍も持っていない足軽の人がやってきた。


「根本うい殿。

 庄屋 梅本修様、ならびに奥方 たか様のご招待により馳せ参じました。

 ご同行願えませぬか?」

たかさん、説得してくれたんだ…。

刃物も持たない人をよこしてくれたのも、彼女の心配りかな…?

時間も少なくなってきたので、急いで同行する。


「ういちゃん!来てくれたのねっ!」


キツイ抱擁を受ける。

締め落とされそう…。


「は、はいっ。…たかさん、化粧が崩れてますよ。

 ほら、ここをこうして…」


「ありがとね…。って、ぼーっとしないっ!

 座敷に案内するわよ!」


女中?の皆さんが慌ただしく動き出す。

ん?あれが庄屋さんの修さんかな?


「『おなごなら頬紅一つで天落つる』か…。」

「何か言いましたっ!?」


たかさんに睨まれてる。

なんかいらん事いったのかな?


「とりあえず、わしらの屋敷に来てもらってよいか?」



〔庄屋 屋敷〕

「ういちゃん、お疲れ様!

 疲れなかった?

 少し休んでからお話にしましょう!」

たかさん、元気だねぇ。

ここまで徒歩だと、だいぶ時間がかかったのに…。


これを一晩で往復するどころか、

プラス1日で藩主様のところにも往復したんでしょ?

甚三郎さん、健脚だねぇ…。



【梅本修】

女中の出した茶をすすり、一息ついたとはいえ、

あどけなさが残るその表情を見ると、現実味を感じれん。


うぅ~む…。

衣装は異様なれど、うわさに聞く西洋のものなのだろう。

顔立ちは整って居るが、幼さがまだ残る。

先日とはうって変わった様だ。

化粧とはほんにものよのう…。


「すまぬが、話はたかの周りにて聞いておった。

 たかは信じておるようだが、わしには突飛すぎてのぉ…。」


「旦那様っ!」


「いえ、私でも信じられないのですから仕方ないです。

 ですが、お見せした特別な力がある以上、

 私も信じざるを得ないというのが本音です。」


「うぅ~ん…。まぁ、信じずには話が始まらんな。

 して、地揺れが起こるとは本当か?」


「はいっ。絶対とは言いませんが、私がいた世界では明後日に地揺れがと残されています。

 もちろん、この世界で必ず起こるというわけではないかもしれませんが…。

 神様が、『救え』といった以上、起こると思ってます。

 そして、私の家の場所も秘密にしておいてもらえると…。」


「あい分かった。兵どもには緘口令を敷き、

 できる限りのことをすると約束しよう。

 とはいえ、地揺れに対して何ができるかと言われるとのぉ…。」

「そうねぇ…。」


「避難訓練とかはしないんですか?」


「「避難訓練?」」


「はい、地震が起きたときにどう動くかとか…」


「それは無理だな。やったって混乱するだけだ。」


「せめて早めに避難するだけでも…」


「うぅむ…。事前に雷か火事でも起きれば…。」


「それですよ!」


「はぁっ?火つけでもするのか!?」


「鐘です!火消し隊がいるでしょ!

 いつ起きるかわかってるなら、その前に鐘を鳴らせばいいんですよ!」


たかがいつになく前のめりだな。が、いい案だ。


「それならできるな!けど、あんまり早いと嘘だと思われてしまう…。

 うい殿、時間はわかるかっ?」


「大体の時間なら…。午前2時…、いや『あかつき、うし、どき?』頃です!」


「暁丑刻頃だな!その前に鐘を鳴らすよう火消し隊に伝えておく!

 町だけでなく、周辺の村にも伝えんとな。

 あとなんかできるか??」


「地震の後になるんですけど…」


「それでもいいわよ!」


「備蓄米を開放できませんか??」


「備蓄米かぁ…。藩主様が砲台こさえたりで厳しいからなぁ…。」


「賛同もせず、拠出を渋っていたでしょ!

 こんな時に開放しないで何が備蓄米よ!

 出せるよう準備しなさい!」


「お、おうっ…。」


「も、もちろん私に提供できる食料は出させてもらいますから!

 それに、あとから何とかして返せるよう頑張りますっ…。」


「ういちゃん、無理はしなくていいんだからね…。

 あと、町医者も集めて救護所作るわ!

 場所はここを開放する!

 宴かなんかやるって言って、集めておいて!」


「ま、まずはこれぐらいだな。いったん手配してくる。」


「わ、わたしも食料を受け取りに一回家に戻ります!

 帰るのは明日になります。その間、よろしくお願いします!」


一礼をして車で家へ向かう。



【根本うい】

日が暮れて、家に着いた。

現状を整理しよう!

庄屋の梅本修さん、その奥さんのたかさんが味方になってくれたのは心強い。

けど、さっきも話した通り、事前にできることは少ない。

とりあえず自宅に戻って惣菜を買い足さないと!


途中から車に乗り換え、自宅に着く。

玄関に着くなり、携帯でポチポチと食料を買い込む。

すると、『売り切れ』の文字が。

バイトしていた時のころを思い出せば、これぐらい爆買いすればそりゃ売り切れる。

当時の商品を思い出して、品目を変えながら、50万円分近くを購入できた。

少し頭を整理しつつ、微睡に飲まれていく…。

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